本研究では,分散メモリ型計算機上でのアプリケーション生産性向上のため,分散メモリ上で透過的な共有メモリを実現する分散共有メモリ (Distributed Shared Memory, DSM) ライブラリの開発に取り組んでいる.ソフトウェアDSMは1990年代に広く研究されたが,当時の処理系においては数十コア程度のスケーラビリティが限界であったため実用には至らなかった.現在において同種の研究分野はPGASと呼ばれる別のモデルが主流となったが,PGASには逐次プログラムからの大幅な改変を必要とする問題がある.本研究では (1) 90年代と比べて相対的に高速化したインターコネクトと (2) タスク並列モデルという2つの技術要素に着目することで,従来のDSMの問題を克服した現代的なライブラリの実現を目指している.現在のマルチコアプロセッサやインターコネクトの性能を引き出すにはマルチスレッド化が必須であり,タスク並列を活用して通信処理を管理する新たな手法を提案している.また,従来のDSMには見られなかった手法として,ディレクトリベースコヒーレンスと呼ばれるキャッシュ無効化メッセージに依存した手法の代わりに,論理タイムスタンプを用いて無効化を行う手法も特色の一つである.現在の実装は単純なOpenMPプログラムをほぼ無変更で動作させることが可能であり,将来的には計算ノード間でのタスク移動にも対応できるよう実装を進めている.評価においては,通信部分とDSM全体の2つについて,ベンチマークプログラムを用いた現状の評価結果を示し,今後の改善方針について述べる.