東京大学情報基盤センター スーパーコンピューティング部門

平成30年度若手・女性利用採択課題

このたびは、お申し込みをいただきどうもありがとうございました。以下の基準による厳正な審査のうえ、課題採択をさせていただきました(順不同)。

  • スーパーコンピューターを利用することで学術的にインパクトがある成果を創出できると期待される点
  • 大規模計算、テーマの重要性
  • 既発表文献

平成30年度(前期)

課題名 カスケード型分子動力学シミュレーションに基づくタンパク質構造の精密化アルゴリズムの開発と応用
氏名(所属) 原田 隆平(筑波大学計算科学研究センター )
利用システム Reedbush-H
本研究では、応募者が独自に開発した「カスケード型分子動力学シミュレーション」を用いて、X線小角散乱(SAXS)や電子顕微鏡(EM)が生成する低次元実験データから、タンパク質の高解像度構造を復元するアルゴリズムを構築する。具体的には、カスケード型分子動力学シミュレーションを改良することで、低解像度実験構造を精密化する。本来、カスケード型分子動力学シミュレーションは、ターゲット構造に類似した分子構造を初期構造に選択し、短時間分子動力学シミュレーション(MD)をリスタートすることで遷移経路を探索したが、低解像度実験構造の細密化にあたり、SAXSやEMが生成する低次元実験データを再現するように初期構造選択を繰り返し、短時間MDをリスタートする。例えばSAXSの場合には散乱データと誤差が小さい分子構造を初期構造に選択し、EMの場合には電子密度マップと相関が高い分子構造を初期構造に選択し、実験データを再現する可能性が高い分子構造から短時間MDをリスタートする構造探索のサイクルを繰り返す。最終的に、サイクルを重ねるにつれて、低次元実験データを良く再現する高解像度タンパク質構造が復元可能となる。

課題名 深層学習による乱流燃焼モデル構築に向けた基礎解析
氏名(所属) 源 勇気(東京工業大学)
利用システム Reedbush-L
今後数10年、化石燃料の燃焼によるエネルギー供給は、総エネルギー供給量の8割前後を推移すると予測されている。従って、自動車・航空機エンジンや、発電用ガスタービンエンジンなどの燃焼機器の低環境負荷化や高効率化が必要であるが、それには、高精度の熱流体数値解析を活用する必要がある。産業用熱流体数値解析では、時間平均や空間フィルタを施した各種の輸送方程式を解くが、これらの方程式を解くために、乱流燃焼モデルと呼ばれるモデルを用いる必要がある。乱流燃焼モデルとは、乱流場と化学反応の相互作用を記述するモデルであるが、この相互作用は非線形性が非常に強く、高精度のモデル化が困難である。一方、そのようなモデルを必要としない高コストの数値計算手法として直接数値計算(DNS)がある。DNS では、全ての考慮する輸送方程式をモデルを用いず高精度数値計算手法を用いて解くが、コストの観点から実用燃焼器の数値解析には用いることができない。本研究では、直接数値計算によって得られたモデル燃焼器の高精度燃焼解析結果と深層学習を用い、実用燃焼器数値解析に必要となる高精度乱流燃焼モデルを構築するための基礎解析を行うことを目的とする。

課題名 Bruciteのナノスケール摩擦における水平方向非一様性に関する研究
氏名(所属) 奥田 花也(東京大学大学院理学系研究科)
利用システム Reedbush-U
層状鉱物は天然断層に多く見られ、一般的な岩石より低い摩擦係数を持つため、断層の挙動を支配すると考えられており、層状鉱物の摩擦特性を調べることは断層の挙動の理解に重要である。岩石の摩擦特性は接触部でのナノスケールの摩擦特性によって記述可能であると考えられており、ナノスケールの摩擦特性は剪断時の結晶構造の変化に伴うエネルギー変化から記述出来る。これまではスーパーセルに単位格子を用い周期境界条件を仮定し、剪断時の結晶構造を変化させながら第一原理電子状態計算によるエネルギー計算を行うことで、無限平面でのナノスケールの摩擦特性を計算してきた。この条件では全てのスーパーセルで原子が全く同一の挙動を示すが、実際の状況では原子毎に異なる挙動を起こすと考えられる。そこで本申請課題では複数の単位格子を含んだ大きいスーパーセルを用いて計算を行うことで、まず剪断時の水平方向の原子の挙動の非一様性が存在するかを調べ、この非一様性が摩擦特性に与える影響を定量的に評価することを目的とする。そのため、本課題によってより現実的な層状鉱物のナノスケールでの摩擦特性を理解することが可能となることが期待される。

課題名 機械学習ポテンシャルを用いた金属-固体酸化物の界面構造とイオン伝導特性の大規模解析
氏名(所属) 清水 康司(東京大学大学院工学系研究科)
利用システム Reedbush-U
全固体リチウムイオン電池や原子スイッチ型抵抗変化メモリの動作原理の解明には、原子スケールでの金属-固体酸化物界面の安定構造およびイオン伝導特性の理解が必要となる。本課題では、Au/Li3PO4モデルに対して機械学習法の一つであるニューラルネットワークポテンシャルを作成し、界面近傍での物性の解析を行う。さらに、ネットワークを拡張し、界面垂直方向への電場の効果を取り入れたポテンシャルの作成に取り込む。計算精度と速度の両立が可能であると期待される本手法により、大規模構造での分子動力学シミュレーションを行い、界面の安定構造や存在しうる欠陥種を明らかにする。また、界面近傍でのイオン伝導特性を理解することにより、上記デバイスの開発に資することを目指す。

課題名 JAXA 内製 MPS 法プログラム P-Flow による大規模流体解析
氏名(所属) 宮島 敬明(国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究センター)
利用システム Reedbush-H,Reedbush-L
我々は、次期国産旅客機の開発に資する大規模流体解析プログラムP-Flow の研究開発を行っている。P-Flow はMoving Particle Semi-Implicit (MPS) 法をベースに、水などの大変形を伴う非圧縮性流体を解析対象にしている。MPS 法は粒子系シミュレーションに分類され、計算対象を多数の仮想粒子として分割し、各粒子と近傍粒子との相互作用から物理量の計算を行う。P-Flow は大規模解析に対応すべく、近傍粒子の探索処理をスレッド並列化し、計算領域を複数プロセスに動的に分割して処理時間の短縮を図っている。これまでの研究で、GPU 化により近傍粒子探索はある程度高速化されたが、動的領域分割とそれに伴う通信がボトルネックとなることがわかった。今年度は、実際の航空機への応用を念頭に、多数ノードや複雑形状に対するP-Flow の適用可能性を検証する。

課題名 人物同一性を考慮した深層学習によるメディアコンテンツの変換生成
氏名(所属) 鈴木 惇(東京大学大学院情報理工学系研究科)
利用システム Reedbush-H
本研究は、人物同一性を考慮して、イラストや楽曲・小説といったメディアコンテンツの変換生成に深層学習を適用する。近年、大規模掲示板や画像・動画投稿サイトの発展に伴って、メディアコンテンツの非特定多数による制作がより盛んになり、メディアコンテンツの制作を補助するツールの需要が高まっている。メディアコンテンツの制作においては、データドメインを問わず、歌手を変えずに歌を変える、人物を変えずにイラストの姿勢を変える、特定のキャラクターの性格・口調を会話に反映するといった、人物同一性を考慮した変換生成が求められる。本研究は、複数データの生成で優れた性能を示す深層学習を用い、人物同一性を考慮したデータ変換生成問題に対する、画像・音声・自然言語といったデータドメインにとらわれない一般的な手法を提案する。

課題名 MD計算による血小板細胞膜蛋白とリガンド結合の立体構造および結合の力学特性の解明(loss of function 型変異体に関して)
氏名(所属) 後藤 信一(東海大学医学部)
利用システム Oakforest-PACS
血小板膜糖蛋白Glycoprotein (GP)Ibαとリガンド蛋白von Willebrand因子(VWF)は生体での止血・血栓形成の初期に必須の役割を演じる。当研究室ではこの分子同士の接着構造を分子動力学計算で再現し、1分子の結合エネルギーを解明した。生物学的実験により GPIbα 233位のアミノ酸変異で血小板の接着特性が変化することが知られている。G233Vはgain of function、G233Aはequalfunction、G233Dはloss of functionとして知られる。これらの変異により結合構造や結合力がどのように変化するかを解明できれば、この分子の結合力を規定する構造を明らかにできる。これにより、新たな血栓症治療薬開発につながる可能性がある。当研究室で野生型の蛋白接着を計算した方法はそのまま変異型にも応用できる。すでにG233V、G233A変異において結合構造と結合エネルギーを計算した。安定結合構造の変化はごく軽微であったが、結合エネルギーはアミノ酸変異により大きく変化した。今回の利用ではG233D のデータを取得し、3変異全ての構造を比較する。

課題名 応力テンソルを用いたクォーク間相互作用の数値解析
氏名(所属) 北澤 正清(大阪大学大学院理学研究科)
利用システム Reedbush-U
宇宙を構成する物質を分解していくと、原子、原子核、核子を経て「クォーク」と呼ばれる素粒子に行き着く。クォークは、現在の宇宙では核子の内部に閉じ込められており単独で観測されることはないが、ビッグバン開闢直後の超高温の宇宙では熱遮蔽効果で相互作用が弱まることにより、閉じ込めから解放された単独の粒子状態として存在していたと考えられている。本研究では、格子ゲージ理論に基づく第一原理数値計算により、超高温物質中におけるクォーク間相互作用の研究を行う。一般に力は、空間に遍在する「場」の歪みによって伝達されるが、この歪みは応力テンソルと呼ばれる量で特徴づけられる。本研究では、複数のクォークが置かれた系の応力テンソルの空間分布を第一原理数値計算によって定量的に測定することで、クォーク間相互作用を場の歪みという近接相互作用的な視点から理解することを実現し、その温度依存性を詳細に調べる。これにより、超高温物質中におけるクォーク間相互作用の伝達機構を微視的に解明し、初期宇宙を理解する鍵となる重要な情報を得る。

課題名 溶融金属への気泡吹き込みを伴う大規模機械撹拌時の流動と微細気泡ダイナミクスの解明
氏名(所属) 山本 卓也(東北大学大学院環境科学研究科)
利用システム Reedbush-U
金属材料プロセスにおける溶融金属内不純物除去処理は品質管理に重要なプロセスとなり、様々な操作により溶融金属の清浄化が行われる。特に溶融アルミニウムや溶鉄の場合、組成調整や不純物除去のために油滴や気泡、粒子を吹き込み、不純物を吸着、反応、浮上分離する。このようなプロセス操作では数トンから数百トンの溶融金属を高速に処理する必要があるが、これらの気泡や粒子挙動を実験的に可視化する手法はない。このため、数値シミュレーションが非常に重要となるが、プロセスが大規模で計算機負荷が莫大であり、詳細なメカニズム解明は難しい。本研究では、このような大規模金属生産プロセス中での現象解明を目的とし、溶融金属への気泡吹き込みを伴う機械撹拌時の溶融金属の流動と微細気泡の挙動解明を行う。気液界面挙動までを追跡するため、界面形状を直接追跡するVolume of Fluid 法を用いた大規模流体計算を行う。撹拌翼下から放出された気体が撹拌翼によって生じたせん断力によって破断、微細化される挙動、撹拌翼から離れた位置での気泡の合一、粗大化までを直接計算し、気泡のダイナミクスを詳細に追う。

課題名 日本沿岸域の高解像度潮流分布とその季節変化の解明
氏名(所属) 小平 翼(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)
利用システム Oakforest-PACS
潮汐は海面変動の主要因であり、付随する潮流は沿岸域の船舶航行や漁業等の海洋活動に大きく影響する。潮汐による海面変動に関しては、衛星海面高度計による全球観測が1990年代初頭から行われ、観測結果と高解像度の二次元数値モデルをデータ同化により融合させることで、潮位と潮流の全球マップが提供されている。最新の潮汐プロダクト(TPXO8)は解像度1/30°(中緯度で約 3km)で提供されているが、沿岸域の詳細な分布を知り、海洋活動に活かすには少なくとも 1kmの解像度が必要と考えられる。また、最近の研究では海洋の温度・塩分構造の季節変化によって潮流の分布に変化が生じることが指摘されている。そこで、本研究ではこれらの季節変化を含むことができる三次元海洋数値モデルを用いて潮流の高解像度マッピングを行うと共に季節変化について考察する。考察対象は日本沿岸域全体とする。季節変化が激しい温度成層構造と、黒潮という強流帯がどのように潮汐に影響するかを考察する。

課題名 シンクロトロン放射を取り入れた二温度磁気流体計算による3次元ジェット伝搬シミュレーション
氏名(所属) 大村 匠(九州大学大学院理学府)
利用システム Oakforest-PACS
X線連星や活動銀河核からジェットと呼ばれる細く絞られた超音速なプラズマ流が噴出し、系の大きさの 1万倍以上のスケールで伝搬していることが知られている。また、ジェットは星間(銀河間)ガスと相互作用することで宇宙環境に大きな影響を与えることがわかっている。ジェットのような希薄なプラズマでは、電子とイオンのクーロン衝突による緩和時間が運動のタイムスケールよりも長くなるため電子温度とイオン温度の異なる二温度状態が形成される。そこで、申請者は世界で初めて電子ガスとイオンガスはともに同じ速度で運動するが独立したエネルギー方程式を持つ一流体二温度磁気流体計算コードを用いてジェット伝搬計算を行う。二温度計算によってジェット内部の電子温度が明らかになることで、観測でわかる輻射をより正確取り扱うことができる。そこで、本課題ではジェットの温度構造や輻射によるダイナミクスなどに一温度の計算との違いがあるかを調べる。さらには、得られた物理量を用いて観測量を導出し、観測結果との比較・解析を行う。

課題名 分子動力学計算によるアミロイド凝集様態の理論的解析
氏名(所属) 大滝 大樹(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
利用システム Reedbush-U
タンパク質の機能発現には固有の立体構造形成(フォールディング)が必須である。しかし、近年、タンパク質が誤って折りたたまれ(ミスフォールディング)、凝集体を形成することが明らかになった。この凝集体はアミロイドと呼ばれ繊維状の構造をなす。これが身体の器官に異常蓄積すると、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病など、神経変性疾患を主とする様々な病を引き起こす。これまでの研究により、疾患とアミロイドの関係が明らかになったものの、その凝集様態(構造、プロセスなど)については未だに分かっていない部分が多い。本課題では、アミロイドについて長時間の分子動力学シミュレーションを行う。部分変異を導入したアミロイドについて計算を行い野生型の計算結果と比較することで、変異に伴う構造安定性やアミロイド繊維間の相互作用の変化など、凝集様態の差異について詳細に調べる。これにより、アミロイドの凝集に大きく寄与するアミノ酸残基と、特徴的な相互作用を明らかにする。

課題名 第一原理計算でひも解く合金が示す長周期積層欠陥構造の形成メカニズム
氏名(所属) 圓谷 貴夫(熊本大学 大学院先導機構)
利用システム Reedbush-U
本研究では、高層ビルの制震ダンパー材として用いられている鉄系形状記憶合金、および、次世代の輸送機材料として注目されている高強度マグネシウム合金が示す長周期積層欠陥(LPSO: Long Period Stacking Ordered)構造の形成メカニズムを第一原理計算に基づき解明することを目的とする。積層欠陥を含む構造の安定性は、部分転位や積層欠陥などの組織因子と結合して機能・力学特性に影響するため、磁性が絡む複雑な相転移の素過程を理解する上で重要な研究課題となっている。本研究では、第一原理計算手法に基づき、a) 広い組成空間及び構造の安定性(有限温度での相安定性を含む)、その相安定性の起源を解明するための電子構造の解析を並行して行う。

課題名 プラズマアクチュエータを用いた振動翼周りの流れの制御
氏名(所属) 佐藤 沙耶(豊橋技術科学大学 機械工学系)
利用システム Oakforest-PACS
トンボや蝶は自然界の中で自由に飛翔し、蝶の中には大陸間を移動するものもいる。昆虫の飛翔は、運動性能に優れ、効率が良く、大気乱流中でも安定しているという特徴がある。これらの特徴は、超小型飛翔体(MAV: Micro Air Vehicle)や今後需要の増加が見込まれる小型航空機において重要な課題である。特に小型航空機は離着陸時の安定性は、飛行の安全性を確保するうえで非常に重要となる。昆虫の飛翔は、羽ばたきながら翼をひねることで発生した渦を利用し揚力を増加させている。従来はトンボの飛翔を模擬することに注力してきたが、MAVにおいて羽ばたき運動とひねり運動を同時に行う場合は機構が複雑になり、装置の重量増加につながる。そこで、ひねり運動に相当するはく離制御効果を得るために、能動的なはく離の制御が求められている。したがって、本課題では流れを誘起する制御デバイスの1つであるプラズマアクチュエータを用いることではく離の能動制御を行い、より揚力が増加する条件を検討する。

課題名 ADVENTURE_Magneticによる、移動体を含む回転機の大規模並列有限要素解析
氏名(所属) 杉本 振一郎(八戸工業大学工学部)
利用システム Oakforest-PACS
ADVENTUREプロジェクトでは、数万ノード規模の超並列計算機環境において1,000億自由度規模の大規模電磁界解析を行うことを目的に、並列電磁界解析ソルバ ADVENTURE_Magnetic (AdvMag)の開発を進めている。AdvMagの新たなターゲットアプリの一つとして、回転機の大規模並列解析に2016年度より取り組んでいる。回転子という移動体を含む回転機の非定常有限要素解析は並列環境での効率的な取り扱いが難しく、スーパーコンピュータを有効に活用できていない分野の一つである。そこで階層型領域割法に新たな領域分割技術を導入し、並列数に応じて計算時間を短縮することのできるソルバを開発した。しかし、 AdvMagはこれまで複素数演算に特化してチューニングを行っていたため非定常解析で必要となる実数演算にまだ弱点がある、効率的な解析に必要となる領域分割後の並列処理にかかる時間が並列数の2乗に比例して増えるなど、回転機の解析全体を効率よく行うにはまだ問題を抱えている。本課題では、 数億~数十億自由度の回転機の非定常有限要素解析を効率よく行えるようになることを目指し、これらの問題を解決する。

課題名 全球雲解像モデルNICAMを用いた水惑星実験による海面水温変動と熱帯の湿潤対流活動の共鳴時空間スケールの決定
氏名(所属) 末松 環(東京大学大学院理学系研究科)
利用システム Oakforest-PACS
本研究では全球雲解像モデルNICAMを用いた水惑星実験を行うことで、海面水温(Sea SurfaceTemperature; SST)変動と熱帯域の湿潤対流活動度の変動が共鳴する時定数と空間スケールを決定し、活発な湿潤対流を伴う熱帯大気の最も顕著な季節内振動であるマッデン・ジュリアン振動(Madden-JulianOscillation; MJO)の理解を深めることを目的とする。具体的には、様々な振幅と時間変化の周期をもつ暖水域を置いた水惑星でどのような対流活動が励起されるかを調べ、MJOのような対流活動に寄与する海面水温の時空間パターンを調べる。また、時期的にはMJOが最も活発なのが北半球冬季、次いで北半球夏季となっていることを踏まえ、熱的赤道を赤道からずらし、片半球の大気大循環が強化される実験も行う。この実験を行うことで大気大循環の南北非対称性が大規模な対流活動を維持することにどのような影響を与えるかについて調べる。

課題名 ハイブリッドクラスタシステムにおけるタイルQR分解のタイルサイズチューニング
氏名(所属) 高柳 雅俊(山梨大学大学院総合研究部工学域)
利用システム Reedbush-H
タイルアルゴリズムによる密行列の行列分解は、並列実行可能な細粒度のタスクを多数生成することで並列計算資源への負荷不均衡を減らすことが可能なため、近年のマルチコアCPU に適している。また、高い性能対消費電力比からGPU を汎用計算に用いるGPGPU が近年非常に盛んである。申請者はこれまでに、OpenMP 4.0 による動的タスクスケジューリングを用いてCPU/GPU クラスタシステムにタイルQR 分解を実装し、大規模行列に対して効率化を行った。タイルアルゴリズムにおいてタイルサイズは重要なパラメータであり、計算速度に大きく影響を及ぼす。しかし、タイルサイズはシステム環境、使用する演算装置によって最適値が異なるため、異なる環境で実験を行う度に、ある程度の範囲を網羅的に探索せねばならず、性能実験の大部分の時間がタイルサイズチューニングに費やされている。現在は、経験則からいくつかのタイルサイズについて測定し、最適値を探索している。本研究では各タスクの実行時間から、動的タスクスケジューリングによるタイルQR 分解の性能モデルを構築し、実験環境における性能予測および、タイルサイズチューニングの実装を行う。

課題名 シェールガス資源量評価を目的としたケロジェンナノ孔隙内のメタン吸着挙動に関する分子動力学シミュレーション
氏名(所属) 曹 金栄(東京大学 大学院 工学系研究科)
利用システム Oakforest-PACS
在来型のガス貯留層と比較してシェールガス貯留層は、非常に微細な孔隙径(1~100nmオーダー)を有している。そのような微細孔隙内の貯留現象においては、在来型ガスにおいては重要視されてなかった吸着現象などの物理現象に大きな影響を及ぼす。従って、シェールガスの可採資源量や生産挙動を適切に予測するためには、これらの物理現象を解明してモデル化を行う必要がある。この目標達成のためには、シェール岩石試料を用いた吸着試験などの実験的なアプローチを進めることは当然のことながら、実験結果の再現が可能な数値計算モデルを構築しなくてはいけない。シェール岩石の孔隙径分布の情報からメタンガスの吸着等温曲線を構築する手法を開発し、その手法を適用して、実際のフィールドにおけるシェール岩石のメタン吸着等温曲線モデルを構築した。本研究では、微細孔隙内の吸着現象・相挙動の解明とモデル化を目標として、分子スケールの数値計算手法を適用した、分子シミュレーションによる吸着現象の数値計算研究を実施します。

課題名 シミュレーションで探る天の川銀河の運動と構造
氏名(所属) 藤井 通子(東京大学大学院理学系研究科)
利用システム Reedbush-L
我々の住む太陽系のある天の川銀河は、形成から約100億年が経過していると考えられている。天の川銀河の進化過程を知るために、数値シミュレーションは非常に有効な手段である。さらに、太陽系は天の川銀河の銀河円盤の中にあるため、銀河円盤内の星間ガスが邪魔をして、銀河円盤内の星の分布を観測でくまなく調べることは不可能である。そのため、シミュレーションの結果と観測で得られる一部の星の位置や運動を比較することによって、天の川銀河のモデルを構築することが、天の川銀河の理解への重要なステップとなる。2018年 4月 25 日に、Gaiaという位置天文衛星によって調べられた、天の川銀河の星の位置と運動の詳細なデータが公開される予定である。このデータは、これまで太陽近傍の星のみ入手可能であった位置と速度の正確な情報を、銀河の広範囲において利用可能にする革新的なデータである。本研究では、データ公開に向けて、天の川銀河のモデル構築、シミュレーション、疑似観測を行い、データ公開後は、観測データと比較してモデルを検討し直すことで、天の川銀河の現在の構造や運動、そしてシミュレー ションによって過去の進化を明らかする。

課題名 Deep Learningを用いたタンパク質のコンタクト残基予測
氏名(所属) 福田 宏幸(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)
利用システム Reedbush-L
本研究は、アミノ酸配列からのタンパク質立体構造予測に、機械学習を応用する研究である。より具体的には、立体構造予測の中間ステップとしてのコンタクト残基(立体構造上近い距離にある残基ペア)の予測に、Deep Learningを用いるものである。これまで、実験の分野ではX線結晶解析やNMRを用いて立体構造の解析が行われているが、 膨大な時間とコストがかかる為、明らかになっているアミノ酸配列のデータ数に比べて立体構造のデータ数はケタ違いに少ない。 一方で近年では、次世代型シーケンサーによって大量のアミノ酸配列が解析されており、計算機による立体構造予測手法の開発が急務となってきている。コンタクト残基の予測においては、近縁のアミノ酸配列のマルチプルアライメントを入力とした予測が行われているが、我々は、全結合層と畳み込みニューラルネットを組み合わせたモデルにより、マルチプルアライメントの重み付けからコンタクト確率の出力までをトータルで最適化するネットワークを提案している('17 蛋白質科学会年会)。本研究では、スパコンの並列GPU環境を用いることで、このネットワークを大規模化し、state of the art の精度を狙うものである。

課題名 Taylor-Couette-Poiseuille流れにおける熱伝達とトルク性能のLES解析
氏名(所属) 藤本 慶(東京農工大学大学院工学府)
利用システム Oakforest-PACS
内壁が回転する同心二円筒間環状流路内の流れ( Taylor-Couette流れ)はジャーナル軸受など多くの回転機械に見られ、それらの冷却および損失低減技術の開発は重要である。本研究では、軸方向貫流のある Taylor-Couette-Poiseuille流れについて、OpenFOAMを用いた熱と運動量輸送の Large Eddy Simulation(LES)解析を、テイラー数 Ta(内壁回転数の無次元数)および貫流強度を表すレイノルズ数 Re を変化させて行う。本利用課題では、実際の回転機械を念頭に乱流域の解析を研究例の少ない高レイノルズ域(10000 以上)で行う。そして、Taylor-Couette-Poiseuille流れで形成される軸方向の周期的なリング構造や螺旋構造と熱伝達およびトルク性能の関係の解明を目的に、貫流の平均流で移動する座標系または螺旋状に移動する座標系において熱伝達およびトルク性能を評価する。評価には、先行研究が提案したTaylor-Couette流れにおける熱伝達およびトルク性能への流れ場の移流、拡散、乱流の3項の寄与度を定量的に評価する方法を用いる。

平成30年度(インターン)

課題名 南極周極流域の乱流混合過程を想定した3次元ray-tracing simulation
氏名(所属) 髙橋 杏(東京大学 理学系研究科)
利用システム Oakforest-PACS
南極周極流域では、上空を吹く偏西風の変動や、地衡流(南極周極流)と海底地形との相互作用によって励起される海洋波動(内部波)が砕波することで、強い乱流混合が生じている。このような乱流ホットスポットにおける乱流混合強度の定量化は、深層海洋大循環像を解明する上でも重要である。
一般に外洋域では、海洋内部に普遍的に存在する(背景)平衡内部波場内でのエネルギーカスケード理論に基づく乱流パラメタリゼーションが用いられるが、南極周極流域では、パラメタリゼーションでは考慮されていない「平均流(地衡流)シアーに伴う物理過程」や「(内部波励起源近傍における)内部波場の異方性」が乱流混合強度に影響を与えうることが指摘されている。
本研究では、内部波場を構成する波束の一つ一つが、不均一な背景場中を反射・屈折を繰り返しながら伝播していく様子を追跡するray-tracing simulationに、背景場として平均流シアーと内部波場を組み込むことで、南極周極流域を想定した乱流混合過程の再現実験を行い、既存の乱流パラメタリゼーションで考慮されてこなかった上記の要因について定量的に検討する。

課題名 計算コストの小さい深層学習モデルアーキテクチャの構築
氏名(所属) 中西 健(東京大学 理学系研究科)
利用システム Reedbush-L
近年は画像分類・画像認識・音声処理・自然言語処理など、あらゆる分野で深層学習が目覚ましい成果を挙げている。またGPUを初めとした計算機能力の向上により非常に大きなネットワークを高速に学習させることが可能となった。一方、スマートフォンや組み込み機器のような利用できる計算リソースが限られた環境において実用的なレスポンス速度で学習済モデルを利用したい場合はモデル自体の計算コストを抑えることが求められる。そこで、本課題では計算コストの小さい深層学習モデルアーキテクチャを構築する手法を提案し、検証する。

平成30年度(後期)

課題名 次世代気象気候ライブラリを用いた雷の発生プロセスの解明
氏名(所属) 佐藤 陽祐(名古屋大学 工学研究科)
利用システム Oakforest-PACS
 雷モデルを結合した次世代の数値気象気候ライブラリを用いて、積乱雲内で発生する雷現象を直接取り扱った数値実験を行う。この数値実験を通して、雷をもたらす台風や冬季の日本海側で発生する積乱雲の電気的特性と微物理特性を再現することを目指す。さらには積乱雲の電気的・微物理特性をより詳細に明らかにすることを目指す。
 雷は、積乱雲を構成する雲粒がもつ電荷や待大気中の電荷を中和する現象として発生する。雲粒の電荷分離は雲粒同士の衝突によって引き起こされると考えられているため(Takahashi 1978)、数値気象モデルで雷現象を再現するには、雲粒の衝突を特徴付ける雲の微物理過程と雷の特性を決定づける雲の電気的特性(電荷)、さらには電場を直接計算する必要である。しかしながら、雷を直接計算する物理コンポーネントは計算コストが非常に高く大規模な計算は困難である。
 本研究ではそれらの問題を解決すべく京やポスト京といった超並列下で性能が出るように設計された、次世代の数値気象気候ライブラリ (SCALE; Sato et al. 2015, Nishizawa et al. 2015)に雷モデルを実装した、数値気象雷モデル (Sato and Tomita 2018)を用いて積乱雲の数値実験を行い、気象雷モデルの妥当性の評価、および積乱雲の電気的・微物理特性をより詳細に明らかにすることを目指す。

課題名 分子動力学計算によるアミロイド凝集様態の理論的解析
氏名(所属) 大滝 大樹(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
利用システム Reedbush-U
 タンパク質の機能発現には固有の立体構造形成(フォールディング)が必須である。しかし、近年、タンパク質が誤って折りたたまれ(ミスフォールディング)、凝集体を形成することが明らかになった。この凝集体はアミロイドと呼ばれ繊維状の構造をなす。これが身体の器官に異常蓄積すると、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病など、神経変性疾患を主とする様々な病を引き起こす。これまでの研究により、疾患とアミロイドの関係が明らかになったものの、その凝集様態(構造、プロセスなど)については未だに分かっていない部分が多い。
 本課題では、アミロイドについて長時間の分子動力学シミュレーションを行う。部分変異を導入したアミロイドについて計算を行い野生型の計算結果と比較することで、変異に伴う構造安定性やアミロイド繊維間の相互作用の変化など、凝集様態の差異について詳細に調べる。これにより、アミロイドの凝集に大きく寄与するアミノ酸残基と、特徴的な相互作用を明らかにする。

課題名 溶融金属への気泡吹き込みを伴う大規模機械撹拌時の流動と微細気泡ダイナミクスの解明
氏名(所属) 山本 卓也(東北大学大学院 環境科学研究科)
利用システム Reedbush-U
 溶融アルミニウムや溶鉄の清浄化プロセスにおいて、組成調整や不純物除去のために油滴や気泡、粒子を吹き込み、不純物を吸着、反応、浮上分離する。しかし、これらの気泡や粒子挙動を実験的に可視化する手法はない。このため、数値シミュレーションが非常に重要となるが、プロセスが大規模で計算機負荷が莫大となり、メカニズムの解明は難しい。特に機械的に撹拌された溶融金属へ気泡を吹き込んだ場合、乱流と気液界面が相互作用をしているため、基礎現象が未だによく分かっていない。
 前期利用において、水を用いた実験結果を数値解析結果と比較することで数値解析の健全性を評価し、機械撹拌中の気泡分裂挙動を調査した。実験結果と数値解析結果は良好に一致し、機械撹拌操作における気泡分裂挙動を数値解析で再現することに成功した。一方で、溶融金属中での気泡挙動解明にまでは至っておらず、継続研究が必要である。そこで、本研究では溶融金属を用いた場合の気泡挙動の追跡シミュレーションを行い、気泡の分断、微細化、合一挙動までを直接計算し、気泡のダイナミクスを解明する。

課題名 ADVENTURE_Magneticによる,移動体を含む回転機の大規模並列有限要素解
氏名(所属) 杉本 振一郎(八戸工業大学)
利用システム Oakforest-PACS
 ADVENTUREプロジェクトでは、数万ノード規模の超並列計算機環境において1,000億自由度規模の大規模電磁界解析を行うことを目的に、並列電磁界解析ソルバADVENTURE_Magnetic (AdvMag)の開発を進めている。
 AdvMagの新たなターゲットアプリの一つとして、2016年度より回転機の大規模並列解析に取り組んでいる。回転子という移動体を含む回転機の非定常有限要素解析は並列環境での効率的な取り扱いが難しく、スーパーコンピュータを有効に活用できていない分野の一つである。そこで階層型領域分割法に新たな領域分割技術を導入し、並列数に応じて計算時間を短縮することのできるソルバを開発した。
 しかし、AdvMagはこれまで複素数演算に特化してチューニングを行っていたため非定常解析で必要となる実数演算にまだ弱点がある、効率的な解析に必要となる領域分割後の並列処理にかかる時間が並列数の2乗に比例して増えるなど、回転機の解析全体を効率よく行うにはまだ問題を抱えている。本課題では、数億~数十億自由度の回転機の非定常有限要素解析を効率よく行えるようになることを目指し、これらの問題を解決する。

課題名 カスケード選択型分子動力学シミュレーションに基づく低解像度タンパク質構造の精密化
氏名(所属) 原田 隆平(筑波大学 計算科学研究センター)
利用システム Reedbush-H
 本研究では、 応募者が開発した「Parallel cascade selection molecular dynamics (PaCS-MD)」を改良した「データ駆動型PaCS-MD」を適用し、 X線小角散乱(SAXS)や電子顕微鏡(EM)が生成する低次元実験データから、タンパク質の高解像度構造を復元するアプリケーションを実施する。 データ駆動型PaCS-MDは、低解像度実験構造の細密化にあたり、SAXSやEMが生成する低次元実験データを再現するように初期構造選択を繰り返し、短時間MDをリスタートする。 例えば、SAXSの場合には散乱データと誤差が小さい分子構造を初期構造に選択し、EMの場合には電子密度マップと相関が高い分子構造を初期構造に選択し、実験データを再現する可能性が高い分子構造から短時間MDをリスタートする構造探索のサイクルを繰り返す。 最終的に、サイクルを重ねるにつれて、低次元実験データを良く再現する高解像度タンパク質構造が復元可能となる。本研究では、データ駆動型PaCS-MDを適用し、膜タンパク質や複合体などの大規模低解像度実験構造から高解像度構造を復元し、方法論を検証する。

課題名 Gibbsite(001)面の第一原理電子状態計算による摩擦特性の研究
氏名(所属) 奥田 花也(東京大学大学院 理学系研究科)
利用システム Reedbush-U
 層状鉱物は天然断層に多く見られ、摩擦係数が一般的な岩石よりも低いことから、層状鉱物の摩擦特性は断層挙動を支配していると考えられている。また層状鉱物の摩擦係数は鉱物種によって異なり、同じ鉱物でも層間のイオン種によって異なる摩擦係数を示す。しかし、これらの差異が何に支配されているのかは明らかではない。岩石の摩擦特性は摩擦面での見かけの接触面の1%程度の真実接触面に支配され、特にナノスケールでの剪断特性の影響が示唆されている。そのため、層状鉱物の摩擦特性の理解には真実接触面でのナノスケールの摩擦特性を明らかにする必要がある。そこで本研究では水酸化アルミニウムの層状鉱物gibbsiteを対象に、第一原理電子状態計算を用いて、層と層を剪断した際の結晶構造の変化に伴うエネルギー変化を計算し、真実接触面での摩擦係数を計算することを目的とする。前課題まで同じ手法により水酸化マグネシウムの層状鉱物bruciteの摩擦係数を計算した。本課題で計算するgibbsiteはbruciteと似た結晶構造で異なる化学組成を持ち、摩擦係数の実験値はgibbsiteがbruciteより大きい。そのため、本課題により、化学組成の差異が摩擦係数に与える影響を明らかにすることが期待される。

課題名 脈動冷却流がガスタービン翼後縁部カットバック面上フィルム冷却性能に与える影響のLES解析
氏名(所属) 中嶋 大智(東京農工大学大学院 工学府)
利用システム Oakforest-PACS
 ガスタービン翼の効果的な冷却は、燃焼ガス高温化を実現するガスタービンエンジン高効率化に必須の技術である。翼後縁部ではスロット吹き出しによるフィルム冷却が採用されており、表裏両面から熱流入があるため、冷却空気膜が形成されるカットバック面(冷却面)上での高温主流ガスからの熱遮蔽、およびカットバック面の冷却が求められる。ここで、主流と冷却流の質量流束比1.0のときに、主流と冷却流の隔壁端部で発生する大規模な渦が主流と冷却流の混合を促進し、熱遮蔽性能を低下させるという問題がある。これに対し、冷却流への脈動付与により大規模渦を抑制し、さらにカットバック面へのディンプル敷設により熱遮蔽性能維持下での対流冷却性能の向上を図るのが本課題である。計算条件は主流レイノルズ数25,000、質量流束比1.0(冷却流レイノルズ数6,250)とし、冷却流脈動片振幅(冷却流バルク流速の1%、10%)、脈動周波数(隔壁側端部で発生する大規模渦放出周波数の1.0倍、1.3倍、1.5倍)、カットバック面形状(平滑面、 30度傾斜涙滴形状ディンプルつき粗面)が熱遮蔽性能および冷却性能に与える影響をLES (Large Eddy Simulation)により調べ、最適な脈動パラメータ、カットバック面形状を決定する。

課題名 シミュレーションで探る天の川銀河の運動と構造
氏名(所属) 藤井 通子(東京大学大学院 理学系研究科)
利用システム Reedbush-L
 我々の太陽系のある天の川銀河は、形成から約100億年が経過していると考えられている。宇宙の時間スケールは非常に長いため、天の川銀河の進化過程を知るために、数値シミュレーションは非常に有効な手段である。さらに、太陽系は天の川銀河の銀河円盤の中にあるため、銀河円盤内の星間ガスが邪魔をして、銀河円盤内の星の分布を観測でくまなく調べることはできない。そのため、シミュレーションの結果と観測で得られる一部の星の位置や運動を比較することによって、天の川銀河全体のモデルを構築し、天の川銀河の構造や進化の歴史を理解することが必要となる。
 2018年4月25日に、位置天文衛星Gaiaによって調べられた、天の川銀河の星の位置と運動の詳細なデータが公開された。このデータは、これまで太陽近傍の星のみ入手可能であった位置と速度の正確な情報を、銀河の広範囲において利用可能にする革新的なデータであり、現在、そのデータを基にした様々な研究成果が発表されている。本研究では、シミュレーションから、天の川銀河のモデル構築、疑似観測を行い、観測データと比較することで、天の川銀河の現在の構造や運動、過去の進化を明らかにする。

課題名 応力テンソルを用いたクォーク間相互作用と自己エネルギーの数値解析
氏名(所属) 北澤 正清 (大阪大学大学院 理学研究科)
利用システム Reedbush-U
 宇宙を構成する物質を分解していくと、「クォーク」と呼ばれる素粒子に行き着く。クォークは、現在の宇宙では核子の内部に閉じ込められた状態でしか存在できないが、ビッグバン開闢直後の超高温の宇宙では熱遮蔽効果で相互作用が弱まることにより、閉じ込めから解放された単独の粒子状態として存在していたと考えられている。
 本研究では、格子ゲージ理論に基づく第一原理数値計算により、超高温物質中におけるクォーク間相互作用の研究を行い、初期宇宙を理解する鍵となる情報を得る。一般に力は、空間に遍在する「場」の歪みによって伝達されるが、この歪みは応力テンソルと呼ばれる量によって特徴づけられる。本研究では、クォークが置かれた系の応力テンソルの空間分布を第一原理数値計算によって定量的に測定することで、クォーク間相互作用を「場の歪み」という近接相互作用的な視点から理解することを初めて実現し、その温度依存性を詳細に調べる。さらに、単独のクォークが置かれた系の応力構造を測定し、多体系と比較することで、クォーク間相互作用伝達機構の多角的な理解を実現する。

課題名 貫流と内壁回転のある環状流路内乱流の螺旋状渦構造が熱伝達およびトルク性能に与える影響のLES解析
氏名(所属) 藤本 慶(東京農工大学大学院 工学府)
利用システム Oakforest-PACS
 近年の省エネルギー化の要求から、ジャーナル軸受、電気モータ、ガスタービン、遠心分離機などの回転機械では、エネルギー効率向上のための効果的な冷却および損失低減技術が求められる。それらの技術の開発には、熱伝達およびトルク性能(軸の回転に必要な動力)の理解が重要となる。本研究では、回転機械内の流れを内壁が回転する同心二円筒間環状流路内の流れ(Taylor-Couette流れ)に単純化し、軸方向貫流のある場合について熱および運動量輸送のLarge Eddy Simulation(LES)解析をOpenFOAMにより行う。そして、熱伝達およびトルク性能を、先行研究が提案したTaylor-Couette流れの熱伝達およびトルク性能への流れ場の移流、拡散、乱流の3項の寄与度を定量的に算出する方法で評価する。これまでは、貫流に運ばれるリング状渦構造が2つの性能に与える影響の評価を試みた。本利用課題では、これまでよりも貫流流速が速い条件で形成される螺旋状渦構造を評価の対象とする。評価は、貫流方向に移動する座標系および螺旋状に移動する座標系で、渦構造の移動を追跡しながら行う。

課題名 ハイブリッドクラスタシステムにおけるタイルQR分解のタイルサイズチューニング
氏名(所属) 高柳 雅俊(山梨大学大学院 総合研究部)
利用システム Reedbush-H
 タイルアルゴリズムによる密行列の行列分解は、並列実行可能な細粒度のタスクを多数生成することで並列計算資源への負荷不均衡を減らすことが可能なため、マルチコアCPUに適している。また、高い性能対消費電力比からGPUを汎用計算に用いるGPGPUが盛んに行われている。申請者はこれまでに、OpenMP 4.0を用いて動的タスクスケジューリングによるCPU/GPUクラスタシステムにタイルQR分解を実装し、大規模行列に対する高速化を行った。タイルアルゴリズムではタイルサイズは重要なパラメータであり、実行速度に多大な影響を与える。しかし、タイルサイズはシステム環境や演算装置によって最適値が異なるため、同じ実装を異なる環境に移す度に最適値を探索する必要があり、性能評価実験の大部分がタイルサイズ調整に費やされる。現在は経験則から一定数の範囲のタイルサイズについて実行時間を測定し、最適値を探索している。 前期採択課題では、CPUで実行される2種類のタスクの計算モデルを作成し、タイルQR分解の性能モデル構築を行った。後期採択課題では、GPUタスクの計算モデルを作成し、クラスタシステムでの性能予測の精度を高める。

課題名 AMR法を適用したデンドライト成長シミュレーションの複数GPU並列化
氏名(所属) 坂根 慎治 (京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科)
利用システム Reedbush-L
 鋳造時に形成される凝固組織は、全ての金属材料の初期組織となり後の加工製品の組織形態に強く影響するため、その高精度な予測と制御は高品質材料開発の鍵となる。Phase-field (PF)法は、典型的な凝固組織であるデンドライト(樹枝状)組織の成長を精度よく予測可能な強力な数理モデルである。一方で、PF法は計算コストが高く取り扱える領域が小さいことが問題である。実用的な材料組織評価のためには複数の3次元デンドライトの競合成長を取り扱う必要があるが、多くの先行研究では2次元問題や3次元デンドライト1本の評価に限定されている。また、凝固では液相流動がデンドライト組織に大きな影響を与えるが、流動を考慮したPF解析は計算コストが更に高くなるため、先行研究の殆どが2次元で行われている。そこで、本研究では、液相流動を伴う二元合金デンドライト凝固モデルの高効率大規模計算法を構築する。具体的には、デンドライト凝固問題にAdaptive Mesh Refinement法を適用し、動的負荷分散を考慮した複数GPU並列化を行う。さらに、構築手法の計算性能を評価し、実用的な凝固組織予測における有用性を確認する。

課題名 人物同一性を考慮した深層学習によるメディアコンテンツの変換生成
氏名(所属) 鈴木 惇(東京大学 情報理工学系研究科)
利用システム Reedbush-H
 本研究は、人物同一性を考慮して、イラストや楽曲・小説といったメディアコンテンツの変換生成に深層学習を適用する。近年、大規模掲示板や画像・動画投稿サイトの発展に伴って、メディアコンテンツの非特定多数による制作がより盛んになり、メディアコンテンツの制作を補助するツールの需要が高まっている。メディアコンテンツの制作においては、データドメインを問わず、歌手を変えずに歌を変える、人物を変えずにイラストの姿勢を変える、特定のキャラクターの性格・口調を会話に反映するといった、人物同一性を考慮した変換生成が求められる。本研究は、複雑データの生成で優れた性能を示す深層学習を用い、人物同一性を考慮したデータ変換生成問題に対する、画像・音声・自然言語といったデータドメインにとらわれない一般的な手法を提案する。

課題名 低質量星団内におけるブラックホール連星形成と重力波放射
氏名(所属) 熊本 淳(東京大学 理学系研究科)
利用システム Reedbush-L
 2016年2月、LIGOによる初の重力波直接検出が発表された。この検出結果は、30太陽質量のブラックホール連星が多数存在することを示唆するものであり、なぜこのような大質量のブラックホール連星が多く存在するのかという疑問を引き起こした。そこで、我々は重力波源天体であるブラックホール連星の起源として高密度星団内でのブラックホール連星の形成に着目し、重力多体シミュレーションを用いて、ブラックホール連星の特徴を解明するための研究を行う。重力N体シミュレーションコードNBODY6を用いて、0.08から150太陽質量の主系列星からなる星団の進化を計算する。NBODY6には星の進化モデルが含まれており、各星の質量放出やブラックホール形成等も計算可能である。このようなシミュレーションを複数モデル計算することで、大質量星が伴星を捕獲して連星を形成し、その後それぞれの星がブラックホールに進化することで10-30太陽質量程度のブラックホール連星に進化する課程を調査する。また、進化する宇宙の中でどの時代にどれだけブラックホール連星が形成するかを見積もることも観測との比較のために重要である。そこで、各時代の星団の金属量依存性についても調査を行う。

課題名 シェールガス資源量評価を目的としたケロジェンナノ孔隙内のメタン相挙動に関する分子動力学シミュレーション
氏名(所属) 曹 金栄(東京大学大学院 工学系研究科 )
利用システム Oakforest-PACS
 在来型のガス貯留層と比較してシェールガス貯留層は、非常に微細な孔隙径(1~100nmオーダー)を有している。そのような微細孔隙内の貯留現象においては、在来型ガスにおいては重要視されてなかった吸着現象などの物理現象に大きな影響を及ぼす。従って、シェールガスの可採資源量や生産挙動を適切に予測するためには、これらの物理現象を解明してモデル化を行う必要がある。この目標達成のためには、シェール岩石試料を用いた吸着試験などの実験的なアプローチを進めることは当然のことながら、実験結果の再現が可能な数値計算モデルを構築しなくてはいけない。
シェール岩石の孔隙径分布の情報からメタンガスの吸着等温曲線を構築する手法を開発し、その手法を適用して、実際のフィールドにおけるシェール岩石のメタン吸着等温曲線モデルを構築した。本研究では、微細孔隙内の吸着現象・相挙動の解明とモデル化を目標として、分子スケールの数値計算手法を適用した、分子シミュレーションによる吸着現象の数値計算研究を実施します。

課題名 安定密度成層下での一様せん断乱流の長時間統計と壁乱流との比較
氏名(所属) 関本 敦 (大阪大学 基礎工学研究科)
利用システム Oakforest-PACS
 安定密度成層下における一様せん断乱流の長時間統計に浮力が及ぼす影響を系統的に調べる。一様剪断乱流には平均流に特徴的な長さスケールが存在しないため、最大スケールは計算領域の拘束を受けて、統計的に定常な乱流が実現できる。得られた統計量は平行平板間チャネルなどの壁乱流の対数領域のものよく一致し、大規模ストリークやそれに伴う大規模渦構造も類似していることが知られているが、大気や海洋などの安定密度成層下では浮力の影響が共存するため自明ではない。浮力に関するOzmidovスケールが、統計的に定常な一様せん断乱流の統計量に及ぼす影響を調査し、壁乱流のデータと比較検討するための基礎データベースとする。