東京大学情報基盤センター スーパーコンピューティング部門

2019年度若手・女性利用採択課題

このたびは、お申し込みをいただきどうもありがとうございました。以下の基準による厳正な審査のうえ、課題採択をさせていただきました(順不同)。

  • スーパーコンピューターを利用することで学術的にインパクトがある成果を創出できると期待される点
  • 大規模計算、テーマの重要性

2019年度(前期)

課題名 LBM-LESを用いた市街地大気汚染拡散大規模非定常高速解析手法の開発
氏名(所属) 韓 梦涛(東京大学 生産技術研究所 )
利用システム Oakforest-PACS
近年都市化及び経済と産業の発展に伴い、都市空気汚染事故が発生する可能性が高くなり (工業事故、テロ、火災爆発、化学品倉庫爆発など) 、その結果も深刻になる。都市空間における空気汚染事故の解析と予測という研究テーマは国内外において盛んに検討が行われており、都市環境工学において最も重要な研究テーマの一つである。しかし、既存の手法で大規模実地都市の非定常解析が困難である。一方、最も有望な解析モデルの一つとなる格子ボルツマン法(LBM)は物理学界的広い関心を集めているが、建築環境分野における注目が少ない。このような状況に対して、本研究はLBMによるLarge-eddy simulation(LBM-LES)及びLBM-Lagrange連成法を利用し、都市空間の多相、非定常現象などが混在する突発大気汚染の拡散過程という複雑な流れ現象を基にして、都市空間の非定常汚染物拡散の高速解析の実用方法の開発と検証を行う。本解析手法に基づいて今まで実現されていない大規模実地都市の非定常空気汚染に適用可能な高速高精度解析が期待される。研究成果は都市大気環境予測、都市安全管理と緊急時避難計画策定に大きく貢献する。

課題名 波形インバージョンによる地球マントル最下部における低速度異常の詳細推定
氏名(所属) 鈴木 裕輝(東京大学大学院 理学系研究科 )
利用システム Reedbush-U
地球マントル(以下単にマントル)の最下部数100 kmはD″領域と呼ばれ、この領域は固体岩石のマントルと液体鉄合金の外核の境界(CMB)直上の熱的及び化学組成的境界領域である。地温勾配とマントル物質のソリダスが交わる可能性がある領域であるので、組成分化を起こすマグマが定常的に存在する可能性が高い。そのためD″領域は、マントルにおいて熱及び化学組成の不均質を生み出す主要な領域であると考えられている。従ってマントルのダイナミクスを観測情報から制約するためには、境界領域の一つであるD″の熱・化学組成不均質を地震学的不均質構造として定量的に推定することが重要である。しかし比較的強い低速度異常の詳細なサイズ及び低速度の程度は既存の構造推定手法では困難であった。また正確な理論地震波形の計算も必要であったが、短周期までの計算は計算資源の問題から困難であった。そこで本申請研究では地震波形に含まれる情報を余すことなく活用できる波形インバージョン手法と、スペクトル要素法による理論地震波形計算ソフトウェアSPECFEM3D_GLOBEを用いてD″領域の低速度異常の詳細な構造推定可能性を定量的に見積もる。

課題名 分子動力学計算によるアミロイド凝集様態の理論的解析
氏名(所属) 大滝 大樹(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
利用システム Reedbush-U
タンパク質の機能発現には固有の立体構造形成(フォールディング)が必須である。しかし、近年、タンパク質が誤って折りたたまれ(ミスフォールディング)、凝集体を形成することが明らかになった。この凝集体はアミロイドと呼ばれ繊維状の構造をなす。これが身体の器官に異常蓄積すると、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病など、神経変性疾患を主とする様々な病を引き起こす。これまでの研究により、疾患とアミロイドの関係が明らかになったものの、その凝集様態(構造、プロセスなど)については未だに分かっていない部分が多い。本課題では、アミロイドについて長時間の分子動力学シミュレーションを行う。部分変異を導入したアミロイドについて計算を行い、変異に伴う構造安定性やアミロイド繊維間の相互作用の変化など、凝集様態の差異について詳細に調べる。これにより、アミロイドの凝集に大きく寄与するアミノ酸残基と、特徴的な相互作用を明らかにする。

課題名 Gibbsiteにおける空孔が摩擦特性へ与える影響の解明
氏名(所属) 奥田 花也(東京大学大学院 理学系研究科)
利用システム Reedbush-U,Reedbush-H,Reedbush-L
層状鉱物は天然断層に多く存在し、摩擦係数が一般的な岩石よりも低いため、層状鉱物の摩擦特性は断層挙動を支配する。そのため層状鉱物の摩擦特性の理解は断層挙動の理解に重要である。一般に摩擦現象は見かけの接触面の1%程度の真実接触面の摩擦特性が支配するため、層状鉱物の摩擦特性の理解には、主要な剪断面の層間でのナノスケールの摩擦特性を調べる必要がある。本研究ではAl(OH)3の層状鉱物gibbsiteを対象に、第一原理電子状態計算により層間での剪断時の結晶構造変化とエネルギー変化を計算する。このエネルギー変化からナノスケールの摩擦特性を求める。Gibbsiteは層の1/3が空孔であり、原子の可動性が高く準安定構造が複数存在するが、正確な摩擦特性の計算には剪断時の最安定構造とエネルギーを求める必要がある。そこで本研究では複数の初期構造から計算することで最安定構造とエネルギーを求め、gibbsiteの摩擦特性を求める。Gibbsiteのように空孔を持つ層状鉱物は他にも多く存在するため、本研究は層状鉱物の摩擦特性に空孔が与える影響を理解し、層状鉱物の摩擦特性のさらなる理解に貢献することが期待される。

課題名 カスケード選択型分子動力学シミュレーションで実現する環状ペプチドの膜透過シミュレーション
氏名(所属) 原田 隆平(筑波大学 計算科学研究センター)
利用システム Reedbush-H
本研究では、 タンパク質の構造遷移経路探索法であるParallel Cascade Selection Molecular Dynamics(PaCS-MD)を中分子環状ペプチドの膜透過プロセスの抽出に適用し、実際に環状ペプチドが膜内部に侵入する際に、どの様な構造変化をしているのかを解明することを目標とする。 また、 PaCSMDから得られる原子座標トラジェクトリを解析し、 膜透過に伴いどの程度の自由エネルギー障壁を越える必要があるのかを定量的に見積もることを可能にする方法論も合わせて開発する。膜透過における環状ペプチドの構造変化の起こり易さを見積もることができれば、実際の中分子創薬において、 どの様なペプチド構造、 アミノ酸配列を設計すれば、より効率的に膜透過を実現するのかに関する極めて重要な設計指針を提供可能となる。 具体的には、PaCS-MDより薬剤分子の膜透過プロセスの構造変化を解析し、マルコフ状態モデルを構築して自由エネルギー地形を計算する。

課題名 First clusterにおけるブラックホール連星の形成
氏名(所属) 藤井 通子(東京大学)
利用システム Reedbush-L
アメリカと欧州の重力波検出装置LIGOとVirgoによって、ブラックホール連星、中性子星連星の合体による重力波放出が検出されて以来、ブラックホール連星の研究が活発になった。ブラックホール連星の形成過程は、元々近接連星として生まれた恒星が、その進化過程で互いの質量をやりとりした結果、距離を縮めてできた「恒星進化説」と星団と呼ばれる星の集団の中で、ブラックホール同士の近接遭遇によって力学的に形成した「力学進化説」の二つが考えられている。それぞれの形成過程によって、ブラックホール連星の質量比、離心率、スピンの分布が異なると考えられ、今後の観測によってこれらの分布が与えられると、ブラックホール連星の形成過程は上記の二つのどちらが優勢なのかが明らかになると期待されている。本研究では、特に、first clusterと呼ばれる、宇宙の初期に生まれた星団でのブラックホール連星形成過程を明らかにする。First clusterでは、重力波で観測されている比較的重い恒星質量ブラックホールが形成すると考えられており、今後の観測との比較で、ブラックホール連星の起源を明らかにできると期待される。

課題名 次世代気象ライブラリによる、台風内部の雷にエアロゾルが与える影響評価
氏名(所属) 佐藤 陽祐(名古屋大学 工学研究科)
利用システム Oakforest-PACS
雷モデルを結合した次世代の数値気象気候ライブラリを用いて、台風内部の雷構造、電気的特性、微物理特性にエアロゾルが与える影響を評価することを目指す。雷は、積乱雲を構成する雲粒がもつ電荷や大気中の電荷を中和する現象として発生する。雲粒の電荷分離は雲粒同士の衝突によって引き起こされると考えられているため、数値気象モデルで雷現象を再現するには、雲粒の衝突を特徴付ける雲の微物理過程と雷の特性を決定づける雲の電気的特性(電荷)、さらには電場を直接計算する必要である。また雲粒微物理特性に影響与えるエアロゾルの影響を考慮する必要がある。しかしながら、エアロゾルと雷を直接計算する物理コンポーネントは計算コストが非常に高く大規模な計算は困難である。本研究では平成30年度までに開発したエアロゾルの影響を考慮できる、次世代の数値気象気候ライブラリ (SCALE) に雷モデルを実装した、数値気象雷モデルを用いて台風を対象とした数値実験を行い、台風内部の雷構造にエアロゾルが与える影響を調べる。

課題名 高速化データ駆動科学を用いた陽電子回折実験のデータ解析
氏名(所属) 田中 和幸(鳥取大学大学院 持続性社会創生科学研究科)
利用システム Oakforest-PACS
超並列高速計算をデータ駆動科学と融合させることで(高速化データ駆動科学)、新規測定手法である陽電子回折実験向けに、データ解析ソフトウェアを開発・応用する。クライオ電子顕微鏡(2017年ノーベル賞)など、データ解析を高速処理することで革新的測定技術が産まれている。本課題では、物質科学とその産業展開に欠かせない、2次元的表面構造(物質表面の一〜数原子層程度の原子座標)の特定に着目した。従来は決定的実験手法がなかったが、近年、KEK物構研で初めて実用化された陽電子回折が大きく注目されている。実験装置の潜在的能力をフルに開花させるため、大域探索型逆問題解析を実現する超並列ソフトが必要であり、本課題で取り組む。具体的大域探索手法として、 (I)アダプティブ・メッシュ・リファインメントを用いたグリッド型探索、および、(II)並列化モンテカルロ法(レプリカ交換型マルコフ連鎖モンテカルロ法など)を用いた確率型探索(ベイズ推定)を開発・応用する。 本課題では(I)を実験系研究者とともに実問題に応用し、(II)は手法開発とテスト計算を行う。展望として、数理手法は汎用であるため、他実験にも応用できる。

課題名 超音波キャビテーション気泡の分裂、崩壊、合一メカニズムの解明
氏名(所属) 山本 卓也(東北大学大学院 環境科学研究科)
利用システム Reedbush-U
液体中へ超音波を照射するプロセスは金属生産分野、化学分野、食品分野等の幅広い分野で見られる。これらは、エマルジョン化、粒子の微細化、有機物分解、化学合成等に利用できるため将来性の大きい技術である。一方で、超音波を液体中へ照射した際に生じる現象はかなり複雑であり、メカニズムの解明がなされていないものが多い。キャビテーション気泡の発生、超音波に起因する気泡の圧縮、膨張、分裂、合一、崩壊、局所高温場やラジカル種の発生と複雑に現象が絡み合う。これまでは、特に単一気泡の振動現象に着目されて研究が行われてきたが、多くの近似が導入されており、現実と異なるものも多い。 そこで本研究では、3次元圧縮性混相流シミュレーションを利用することで超音波環境下に存在するキャビテーション気泡の運動を解明する。特にキャビテーション気泡の膨張、圧縮、分裂、合一、崩壊現象を数値シミュレーションで解明し、超音波照射時に発生する複雑現象を紐解き、応用プロセスでの効率向上方法を提案する。

課題名 医療応用を見据えた電磁界-熱伝導連成解析システムの包括的な高速化・高度化
氏名(所属) 杉本 振一郎(八戸工業大学)
利用システム Oakforest-PACS
並列電磁界解析ソルバADVENTURE_Magnetic (AdvMag)のターゲットアプリの一つとして、数値人体モデルを用いた癌の温熱療法の効果を定量的に評価することを目指している。その一環として、2016年度のFX10スーパーコンピュータシステム「大規模HPCチャレンジ」にて160億自由度の数値人体モデル(解像度0。5 mm)を10分で解析することに成功した。さらに、2017年度の若手・女性利用後期課題を経て、2018年度のOakforest-PACSスーパーコンピュータシステム「大規模HPCチャレンジ」にて1、280億自由度の数値人体モデル(解像度0。25 mm)を15分で解析することに成功した。本課題では、これまでの癌の温熱療法の効果を定量的に評価するための取り組みをさらに進め、熱伝導解析も対象とする。AdvMagと並列熱伝導解析ソルバADVENTURE_Theramlを用いた電磁界-熱伝導連成解析システムの高速化・高度化を包括的に行うことで、スーパーコンピュータ上で1億自由度以上の電磁界-熱伝導連成解析を効率的に行うことができるシステムの研究開発を行う。

課題名 Numerical simulation of deepwater oil blowout: turbulent jets and droplet size distribution
氏名(所属) Daniel Cardoso Cordeiro(大阪大学大学院 基礎工学研究科)
利用システム Oakforest-PACS
In 2010, the largest offshore oil spill in history happened in the Gulf of Mexico. The sub-sea injection of chemical dispersants was used to treat deepwater oil spills. The overall effectiveness of this method is still questioned as appropriate measures of the oil droplets were not performed in situ. Our study uses a hybrid VOF-Multiphase Euler model to investigate this phenomenon. Our goal is to design a reliable numerical model that can predict the droplet size distribution more accurately.

課題名 複雑ネットワークに基づく熱硬化性樹脂の構造物性研究
氏名(所属) 天本 義史(九州大学 先導物質化学研究所)
利用システム Reedbush-U,Reedbush-L
本研究では、ネットワークポリマーの繋がりに関する不均一性を考慮し、熱硬化性樹脂のネットワーク構造と力学物性の関係を明らかとする。 ネットワークポリマーは、ゴムやタイヤなど身の回りの様々な所に使われている材料の基本要素であり、その力学物性の記述は重要である。ネットワークポリマーの物性は、様々な力学モデルが提唱されているが、ネットワークの複雑な繋がりに着目した研究例は、ほとんど報告されていない。これは、ネットワークの不均一性を評価する手法が限られているためである。 これまで、申請者は、エラストマーの力学物性に関し、ネットワークの複雑性を取り入れて、力学物性を明らかにした。しかし、熱硬化性樹脂は、調査しておらず、エラストマーとは異なる機構で、力学物性が記述できると期待される。本手法では、不均一なネットワーク構造をそのまま解析し、それぞれの架橋点の役割を求める事ができる点に特色がある。

課題名 ミニマルスパン・チャネル乱流の直接数値計算による乱流伝熱解析
氏名(所属) 関本 敦(大阪大学 基礎工学研究科 )
利用システム Oakforest-PACS
化学プロセスの混合攪拌などの単位操作にみられる高プラントル数Pr(もしくは高シュミット数Sc)流体においては、乱流中の最小スケール渦よりもPr^(-1/2)倍小さなスケールの運動が生じ、非常に多くの格子点数を必要とするためその直接数値計算(DNS)は非常に困難である。既往の高プラントル数流れのDNSでは、速度場は微小乱流渦までを解像し、温度場についてのみ高解像度で解くが、浮力がある場合には乱流の微細渦にまで変動が加わる。本研究では、全変数に対して全スケールを解像したシミュレーションを高精度DNSコードによって実現する。また、ミニマルスパン・チャネル乱流を用いることで、大規模スケールの影響をスパン方向の計算領域幅に制限し、計算コストを抑えつつ、レイノルズ数やプラントル数を上げる。異なる浮力の強さでスカラー場の変動が微細秩序渦に及ぼす影響を調べることができる。

課題名 世界最高レイノルズ数乱流データベース構築のためのGPU-DNSコードの作成
氏名(所属) 関本 敦(大阪大学 基礎工学研究科 )
利用システム Reedbush-L
近年は機械学習研究の後押しによって、GPUを搭載した計算機がスーパコンピューティングセンターで導入されることが多くなっており、現在の最高性能計算機SummitもGPUを搭載している。計算機の性能向上がヘテロジーニアス環境によって実現されており、研究で用いるプログラムもそれに追随する必要に迫られている。これまでの乱流のスペクトル法による直接数値計算はベクトル計算機で高性能に実施されていたものが、スカラーコンピュータで並列数を上げて計算するものへと変遷してきた。今後は、GPUを用いたDNS計算コードによって、乱流データベースの最高レイノルズ数が更新されると予想できる。そこで、本研究では、申請者がこれまでに行ってきたDNSコード群をGPU化してその性能評価を行う。

課題名 科学技術計算の効率的超並列化に向けた静的負荷分散を行うDSLの開発
氏名(所属) 西田 秀之(東京大学大学院 情報理工学系研究科 )
利用システム Oakforest-PACS,Reedbush-L
大規模計算を行う際には、効率的に並列計算を行うことが望ましい。しかし、科学技術計算で頻出するイレギュラーなデータ構造では、効率的な並列化は難しい。例えば、計算量がarray of arrayの要素数に依存する場合、配列の次元に対する単純な並列化ではプロセッサ毎の計算量が不均一となることが予想される。本研究では、イレギュラーなデータ構造の効率的超並列プログラムを簡便に記述できるプラットフォームの創出を目指す。開発はイレギュラーなデータ構造を対象とした領域特化言語 (Domain Specific Language、 DSL)の形で行う。本DSLでは、用いるデータ構造に対するユーザの知見を並列化スケジューリングに取り入れ、プログラム実行時に並列化コードを生成する。これにより、静的に負荷分散された効率的な超並列計算を可能とする。

課題名 低質量星団におけるブラックホール連星形成とその金属量依存性
氏名(所属) 熊本 淳(東京大学 理学系研究科)
利用システム Reedbush-L
2016年LIGOによる初の重力波直接検出が発表された。この検出結果は、約30太陽質量のブラックホール連星が多数存在することを示唆するものであり、なぜこのような大質量のブラックホール連星が多く存在するのかという疑問を引き起こした。そこで、我々は重力波源天体であるブラックホール連星の起源として高密度星団内でのブラックホール連星の形成に着目し、重力多体シミュレーションを用いて、ブラックホール連星の特徴を解明するための研究を行っている。重力N体シミュレーションコード NBODY6を用いて、主系列星からなる星団の進化を計算し、ブラックホール連星形成について調査を行ってきた。これまでの研究において、低質量星団内において、大質量星団とは異なったメカニズムでブラックホール連星が形成されることを発見した。そこで、本研究では低質量星団に着目し、異なる初期条件(金属量等)を用いてシミュレーションを行うことで時々刻々と変化する宇宙の進化の中でどれだけのブラックホール連星が形成されるか、また、その形成確率と観測検出率は矛盾しないだろうか、等の検証を行う。

課題名 CENP T 天然変性領域の翻訳後修飾が結合機構へ及ぼす影響の研究
氏名(所属) 山守 優(産業技術総合研究所 人工知能研究センター)
利用システム Reedbush-U
本研究課題では、 細胞分裂時の有糸分裂期において、 インナーキネトコアとアウターキネトコアの結合に重要な役割を果たす Ndc80 複合体と Centromea Protein T の結合様式を分子動力学シミュレーションと自由エネルギー計算を用いて明らかにすることを目的とする。

2019年度(後期)

課題名 Gibbsiteにおける空孔が摩擦特性へ与える影響の解明
氏名(所属) 奥田 花也(東京大学大学院 理学系研究科)
利用システム Reedbush-U・Reedbush-H・Reedbush-L
層状鉱物は天然断層に多く存在し、摩擦係数が一般的な岩石よりも低く多様な値を示すため、地震発生時の断層挙動の理解に重要である。しかし、これまで層状鉱物の摩擦係数が何によって支配されているのかは明らかではなかった。そこで本研究では密度汎関数法に基づく第一原理電子状態計算により、Al(OH)3の層状鉱物gibbsiteを対象に、層状鉱物の主要な剪断面である層間におけるナノスケールの摩擦特性を計算する。Gibbsiteは層の1/3が空孔であり、空孔を持つ多くの層状鉱物の摩擦特性を明らかにするためのアナログとなると期待される。計算した結果は、過去に計算した、層内に空孔を持たないがgibbsiteとほぼ同じ結晶構造を持つMg(OH)2の層状鉱物bruciteの結果と比較し、空孔が摩擦特性に与える影響を議論する。また本研究では将来のさらなる層状鉱物の摩擦特性の計算に向けたGPUによる計算の高速化にも取り組む。

課題名 波形インバージョンによる地球マントル最下部における低速度異常の詳細推定
氏名(所属) 鈴木 裕輝(東京大学大学院 理学系研究科 )
利用システム Reedbush-U・Reedbush-H・Reedbush-L
地球マントル(以下単にマントル)の最下部数100 kmはD″領域と呼ばれ、この領域は固体岩石のマントルと液体鉄合金の外核の境界(CMB)直上の熱的及び化学組成的境界領域である。地温勾配とマントル物質のソリダスが交わる可能性がある領域であるので、組成分化を起こすマグマが定常的に存在する可能性が高い。そのためD″領域は、マントルにおいて熱及び化学組成の不均質を生み出す主要な領域であると考えられている。従ってマントルのダイナミクスを観測情報から制約するためには、境界領域の一つであるD″の熱・化学組成不均質を地震学的不均質構造として定量的に推定することが重要である。しかし比較的強い低速度異常の詳細なサイズ及び低速度の程度は既存の構造推定手法では困難であった。また正確な理論地震波形の計算も必要であったが、短周期までの計算は計算資源の問題から困難であった。そこで本申請研究では地震波形に含まれる情報を余すことなく活用できる波形インバージョン手法と、スペクトル要素法による理論地震波形計算ソフトウェアSPECFEM3D_GLOBEを用いてD″領域の低速度異常の詳細な構造推定可能性を定量的に見積もる。

課題名 大規模な共溶媒分子動力学シミュレーションによる至適共溶媒セットの構築
氏名(所属) 柳澤 渓甫(東京大学大学院 農学生命科学研究科)
利用システム Reedbush-L
標的タンパク質の立体構造を用いて薬剤候補化合物を選別する構造ベースのバーチャルスクリーニング手法は、薬剤開発の初期段階における重要技術とされている。その中でも、共溶媒分子動力学CMD )法は、薬剤開発の難易度が高いとされる薬剤結合部位が不明瞭な構造に対して、共溶媒を用いてタンパク質の構造変化を誘起させ、低分子結合部位の検出や、低分子結合親和性予測等を可能とする手法である。 CMD 法は用いる共溶媒の選択が重要であるが、従来手法における共溶媒では分子構造の多様性が十分に考慮できていないことが 2019 年に指摘され ている。本課題研究ではシミュレーション結果を定量的に評価し、多様性の観点か ら適切な共溶媒セットを構築する。まず、薬剤分子から抜き出された 1 00 種類 以上 の部分構造を共溶媒として、合計 60µ s 以上の大規模な CMD 計算を行う。続いて、シミュレーション結果の類似度を定義し、クラスタリング手法を適 用、代表点を抜き出すことで共溶媒セットを構築する。シミュレーション結果に基づく多様な共溶媒セット構築により、より効率のよい CMD 法を可能とする。

課題名 高速化データ駆動科学を用いた先端量子ビーム回折実験のデータ解析
氏名(所属) 田中 和幸(鳥取大学大学院 工学研究科)
利用システム Oakforest-PACS
超並列計算とデータ駆動科学を融合させることで(高速化データ駆動科学),先端量子ビーム回折実験へのデータ解析ソフトウェアを開発・応用する.クライオ電子顕微鏡(2017年ノーベル賞)など,データ解析を高速処理することで革新的測定技術が産まれている.本課題では,物質科学とその産業展開に欠かせない,量子ビーム回折による2次元的表面構造(物質表面の一~数原子層程度の原子座標)の特定に着目した.近年,陽電子回折(KEK物構研)・高速エックス線回折(産総研)など,新しい実験手法が大きく注目されている.実験装置の潜在的能力をフルに開花させるため,大域探索型逆問題解析を実現するソフトが必要であり,本課題で取り組む.大域探索手法として,(I)アダプティブ・メッシュ・リファインメントを用いたグリッド型探索,(II)超並列化(ポピュレーションアニーリング型)モンテカルロ法を用いた確率型探索(ベイズ推定)を開発・応用する.(I)は実験系研究者とともに実問題解析が進行中であり,これを発展させる.(II)は100万以上並列度数を想定し,富岳などでのキラーアプリとなることを目標にしたプログラム開発とテスト計算を行う.

課題名 ロボット遠隔操作のための複数台搭載魚眼カメラを用いた周囲環境の3次元再構成
氏名(所属) 小松 廉(東京大学大学院 工学系研究科)
利用システム Reedbush-H・Reedbush-L
人間にとって危険な環境において遠隔操作ロボットを用いて調査・復旧作業を行うことは極めて重要である.ロボット遠隔操作の際,操作者は遠隔地からロボットに取り付けられた複数のカメラからの一人称視点映像を見ながら操作をする.しかし,一人称視点映像ではロボット周囲環境の把握が難しく操作性が悪いことが問題である.そこで,本研究では複数のカメラ映像を統合することでロボットを外から眺めたような三人称視点を仮想的に生成するシステム,任意視点映像提示システムを提案する.これにより,操作者は視点を自由に変えられることでロボット周囲環境を容易に把握可能となり,操作性の向上が期待できる.従来研究により,床面・壁面・ロボットで構成された単純な屋内環境においては任意視点映像の生成が可能となった.しかし,机,椅子等の複雑な形状の物体が存在する環境においては従来の手法では任意視点映像の生成が困難である.したがって,本研究ではロボットに取り付けられた複数台魚眼カメラ映像から周囲環境の3次元再構成をする手法を構築し,複雑な形状の物体が存在する環境においても任意視点映像生成が可能なシステムの構築を目指す.

課題名 階層型直交格子法を用いた航空機高揚力装置の近傍場音響予測
氏名(所属) 菅谷 圭祐(東京大学 工学系研究科)
利用システム Oakbridge-CX
近年の航空輸送への需要の高まりに伴い,低騒音な航空機の実現が望まれている.数値流体力学(CFD)を用い,機体騒音の発生メカニズムを理解し航空機の設計に反映することは,低騒音な航空機の設計に有利である.しかし,着陸時の主要な騒音源である高揚力装置や降着装置は形状が複雑なため,CFDを用いた騒音予測に必要な格子生成がボトルネックになる.そこで,複雑な形状に対し自動で格子を生成可能な直交格子法が,近年注目されている.直交格子法は,格子が壁面に沿わないため壁面近傍で計算の精度が低下することが課題であったが,壁面近傍の流れをモデル化する手法を組み合わせることで,精度の良い計算が可能になりつつある.本研究の目的は,直交格子法に壁面近傍の流れをモデル化する手法を組み合わせ,航空機の機体騒音を予測する手法を確立することである.本研究により,CFDによる騒音予測の大部分の作業を自動化することが可能になる.本研究には直交格子流体ソルバUTCartを利用する.

課題名 分子動力学計算によるアミロイド凝集様態の理論的解析
氏名(所属) 大滝 大樹(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
利用システム Reedbush-H
タンパク質の機能発現には固有の立体構造形成が必須である。しかし、近年、タンパク質が誤って折りたたまれ、凝集体を形成することが明らかになった。この凝集体はアミロイドと呼ばれ線維状の構造をなす。これが身体の器官に異常蓄積すると、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病など、神経変性疾患を主とする様々な病を引き起こす。これまでの研究により、疾患とアミロイドの関係が明らかになったものの、その凝集様態(構造、プロセスなど)については未だに分かっていない部分が多い。本課題では、アミロイドについて長時間の分子動力学シミュレーションを行う。部分変異を導入したアミロイドについて計算を行い、変異に伴う構造安定性やアミロイド線維間の相互作用の変化など、凝集様態の差異について詳細に調べる。これにより、アミロイドの凝集に大きく寄与するアミノ酸残基と、特徴的な相互作用を明らかにする。

課題名 様々な初期質量の大質量星から前兆ニュートリノに関する系統的な研究
氏名(所属) 加藤 ちなみ(東北大学 工学研究科)
利用システム Reedbush-L
本研究のキーワードは、「大質量星」と「前兆ニュートリノ」である。太陽の8倍以上の初期質量を持つ大質量星は、進化の最期に超新星爆発を起こす。爆発前の内部構造や爆発メカニズムには未だに多くの謎が残されており、宇宙物理学における大きな研究分野の一つである。大質量星の進化や爆発メカニズムにはニュートリノが大きく関わっており、これらを直接観測することができれば残された謎の解明に至ると期待されている。特に爆発前に放出されるニュートリノを前兆ニュートリノと呼ぶ。エネルギーや放出数の観点から前兆ニュートリノの観測は難しいとされてきたが、近年の観測技術の発展を受けて太陽系近傍であれば検出できる可能性がでてきた。そのため、近年前兆ニュートリノへの関心が高まっており、世界中のニュートリノ観測装置における検出数予想が行われている。そこで、本研究では、予想の精度をより良くするために進化を大きく左右する初期質量に対する前兆ニュートリノ放出の依存性を議論し、観測可能圏内にある様々な初期質量を持つ大質量星からの前兆ニュートリノ観測の理論予想を系統的に行う。

課題名 超音波キャビテーション気泡の分裂、崩壊、合一メカニズムの解明
氏名(所属) 山本 卓也 (東北大学大学院 環境科学研究科)
利用システム Reedbush-U
液体中へ超音波を照射するプロセスは金属や化学、食品等の幅広い分野で見られる。これらは、エマルジョン化、粒子の微細化等に利用できるため将来性の大きい技術である。一方で、超音波を液体中へ照射した際に生じる現象はかなり複雑であり、メカニズムの解明がなされていないものが多い。これまでは、特に単一気泡の振動現象に着目されて研究が行われてきたが、多くの近似が導入されており、現実と異なるものも多い。前期課題では超音波キャビテーション気泡分裂メカニズムを明らかにすることで、球形気泡の安定性解析結果よりも少し不安定な領域に入ると、気泡分裂し小さい気泡だけが存在すると明らかになった。一方で、核生成理論によると単一気泡が一次核生成するとは考えにくく、不純物や壁面でのクラックからの二次核生成から気泡が発生していると考えられる。このような壁面やクラック存在下での超音波キャビテーションの挙動は全く理解されていない。そこで、本研究では壁面クラック部に発生したキャビテーション気泡の挙動を解明することを目的として、圧縮性気液混相流の数値シミュレーションを行う。

課題名 Investigation of the droplet Weber number behavior in a deepwater oil blowout
氏名(所属) Daniel Cardoso Cordeiro(大阪大学大学院 基礎工学研究科)
利用システム Oakforest-PACS
The behavior of the oil droplet size distribution (DSD) in a deepwater oil blowout is not well understood. In previous simulations, we found a relationship between the maximum average droplet Weber number and the jet/blowout inlet conditions given by the Brownell-Katz number. Our objective in this study is to further investigate the effect of the oil jet viscosity and density on the droplet Weber number to validate our hypothesis. This could lead to a more accurate method for DSD estimation.

課題名 並列プログラミングモデルHPX とXMP の比較と改善
氏名(所属) 姜 蘇航(東北大学 情報科学研究科)
利用システム Oakbridge-CX
本研究はタスクに基づく並列実行モデルの効率の向上に関する研究です。超並列計算システムでは同期にすごく時間がかかるので、必要最小限の同期回数で並列処理を実行できる環境を構築し、ヘテロな計算資源にタスクを割り当てる方法を検討します。現在二つの主要な並列計算ランタイムシステム:アメリカ開発したHPX(C++言語を使う)と理化学研究所のXMP(C またFortranを使う)に対して比較することをしています。 これらは、分散メモリシステムのSPMD プログラミングスタイルの利点を組み合わせるために、区分グローバルアドレス空間(PGAS)モデルに基づいて設計されています。それに対しての問題点は二つのランタイムシステムでタスクベース/非タスクベースの並列処理を実行することによるパフォーマンスへの影響です。今までの進捗はラプラス方程式とコレスキー分解プログラムをベンチマークとして実装して使用しました。 評価結果に基づいて、言語の仕様および機能、そして性能に関して2 つの観点から行うことにして、二つランタイムシステムを定量的に比較した。それと共に、XMP システムはまだ開発中なので、タスクマッピングの方法を改善する余裕があるかもしれません。

課題名 フルートの吹込み角度による音色変化のメカニズム解明
氏名(所属) 小野木 君枝(豊橋技術科学大学 機械工学系)
利用システム Oakbridge-CX
フルート等の管楽器は,楽器に吹き込んだ空気の流れと楽器が相互干渉して発音する.なかでもフルートは演奏人口が多い楽器であるが,演奏者によって音色がさまざまに異なる.演奏法の習得は主に経験的になされており,息の速さや向き等をどうコントロールすればよいのか,科学的な知見は十分に得られていない.演奏法と音の関係を科学的に明らかにすることで,新たな観点からの音楽教育の実現が期待できる.実際の演奏への応用を目指すうえでは,人間の演奏状態に近い条件での調査が必要となる.先行して行った実験では,フルート演奏時の口腔形状を再現した機器を用いて楽器を人工的に吹鳴させ,演奏時の吹込み角度によって音色が変化することを明らかにした.音色が変化する現象について,一般的なフルート演奏で起こりうる現象として説明するためには,メカニズムの解明が求められる.そこで本課題では,数値計算で人間演奏状態を再現し,時間的および空間的に高い解像度で息の流れの変動と音色への寄与を定量的に評価することで,吹込み角度が音色に影響するメカニズムを明らかにする.

課題名 マルチスケール分子シミュレーションによる受容体チロシンキナーゼの構造モデリング
氏名(所属) 森 義治(北里大学 薬学部)
利用システム Reedbush-H
受容体チロシンキナーゼは細胞内外のシグナル伝達を媒介する膜貫通タンパク質であり,細胞増殖などの制御に関わっている。膜貫通部分は一本のヘリックス構造から構成されており,非常に柔軟な性質を有していることからX線結晶構造解析などの実験的手法においても正確な全体構造はほとんど明らかになっていない。細胞内外をつなぐシグナル伝達機構を理解するためには,タンパク質全長構造を明らかにする必要がある。本研究課題では分子動力学シミュレーションを用いた受容体チロシンキナーゼの全長の構造モデリングを行い,そのシグナル伝達機構を解明することを目的とする。 以上の目的を達成するために,マルチスケールでの分子モデリング法を使用する。はじめに受容体チロシンキナーゼの既知のドメインを連結し,初期全長モデルを作成する。このモデルに対して粗視化分子シミュレーションを実行し,大規模な構造揺らぎにおける構造サンプルを得る。そして重要な構造に対して全原子分子シミュレーションを実行し精密化を行う。これらの方法による受容体チロシンキナーゼの精密構造モデルを提示し,細胞内外のシグナル伝達機構を解明する。

課題名 科学技術計算の効率的超並列化に向けた静的負荷分散を行うDSLの開発
氏名(所属) 西田 秀之 (東京大学大学院 情報理工学系研究科)
利用システム Reedbush-LOakforest-PACSOakbridge-CX
並列化において、効率的な計算のためにチューニングが行われる。特に、大規模計算機を用いるような超並列化では並列効率の向上が望まれる。しかし、科学技術計算で頻出するイレギュラーなデータ構造では、効率的な並列化は難しい。例えば、計算量がarray of arrayの要素数に依存する場合、配列の次元に対する単純な並列化ではプロセッサ毎の計算量が不均一となる。そのため、配列の中身を考慮した並列化を行わなければならない。本研究では、イレギュラーなデータ構造の効率的超並列プログラムを簡便に記述できるプラットフォームの創出を目指す。開発はイレギュラーなデータ構造を対象とした領域特化言語 (Domain Specific Language, DSL)の形でC++をホスト言語として行う。本DSLでは、用いるデータ構造に対するユーザの知見を並列化スケジューリングに取り入れ、プログラム実行時に並列化コードを生成する。これにより、静的に負荷分散された効率的な超並列計算を可能とする。

課題名 大質量星団形成過程の解明
氏名(所属) 藤井 通子(東京大学大学院 理学系研究科)
利用システム Oakbridge-CX
星は分子雲と呼ばれる低温の星間ガスから生まれる。星の多くは星団(数千から数百万個の星の集まり)として集団生まれるため(図1)、分子雲からの星団形成過程を明らかにすることは、星形成過程の解明に繋がる重要な研究テーマである。特に、大質量星団は、星の進化を経て、ブラックホール連星を形成し、これらが合体することで重力波を出すため、重力波観測が始まった今、非常に注目されている。これまでの星団の形成・進化のシミュレーションは、高分解能かつ、様々な物理現象(星間磁場や大質量星による輻射や質量損失によるフィードバックなど)をより精密に扱う方向に進んでいた。しかし、このような超高分解能シミュレーションでは、10^3太陽質量程度の比較的小さな星団しか扱うことができない。その一方、10^4太陽質量を超えるような大質量星団がブラックホール連星形成においては重要であり、さらに、そのような大質量星団の形成過程は、未だ謎が多い。本研究課題では、新規開発の流体+重力多体計算コードを用い、これまでより大質量の星団形成シミュレーションを星一つ一つを分解して行い、大質量星団の形成過程を明らかにする。

課題名 低質量星団におけるブラックホール連星形成とその金属量依存性
氏名(所属) 熊本 淳(東京大学 理学系研究科)
利用システム Reedbush-L
2016年LIGOによる初の重力波直接検出が発表された。この検出結果は、約30太陽質量のブラックホール連星が多数存在することを示唆するものであり、なぜこのような大質量のブラックホール連星が多く存在するのかという疑問を引き起こした。そこで、我々は重力波源天体であるブラックホール連星の起源として高密度星団内でのブラックホール連星の形成に着目し、重力多体シミュレーションを用いて、ブラックホール連星の特徴を解明するための研究を行っている。重力N体シミュレーションコード NBODY6を用いて、主系列星からなる星団の進化を計算し、ブラックホール連星形成について調査を行ってきた。これまでの研究において、低質量星団内において、大質量星団とは異なったメカニズムでブラックホール連星が形成されることを発見した。そこで、本研究では低質量星団に着目し、異なる初期条件(金属量等)を用いてシミュレーションを行うことで時々刻々と変化する宇宙の進化の中でどれだけのブラックホール連星が形成されるか、また、その形成確率と観測検出率は矛盾しないだろうか、等の検証を行う。

課題名 MPS法への新規高速化手法の実装と評価
氏名(所属) 宮島 敬明(理化学研究所 計算科学研究センター )
利用システム Reedbush-H・Reedbush-L
ムーアの法則やデナード則の終焉に伴い、スケーリングに頼らない計算時間短縮の手法の研究がソフトウェアとハードウェアの両分野で進められている。本研究の目的は、近年注目されている粒子系ソルバー Moving Particle Semi-implicit (MPS) 法を題材に、時空間ブロッキング (TB:TemporalBlocking) と呼ばれる最適化アルゴリズムを適用した新手法、 TB-MPS 法の提案を行い、 TB の粒子系ソルバーへの適用可能性を理解することである。これらの提案手法が既存の高速化手法に対しどの程度の優位性を持つかを理解し、今後の高 Byte/Flop (B/F)な高性能計算の方向性を展望することが、本研究の大きな目的である。

課題名 CO2地中貯留ための二相流流動と岩盤力学の連成解析
氏名(所属) 張 毅 (地球環境産業技術研究機構)
利用システム Oakbridge-CX
CO2地中貯留に関するプロセスには地層(細孔)中の二相流(CO2及び塩水)の流動及び地層のジオメカニクス変形の物理が含まれる。流体の流動及び地層の変形どちらも堆積物の不均一性の影響を受け、モデリングに物性パラメータの不確実性が引き起こされる。本研究では、確率的手法によって不均質的地層モデルの実現を考慮し、水理地質学と岩盤力学の連成解析モデリングを通してジオメカニクス変形の不確実性を評価する。

課題名 ミニマルスパン平行平板間乱流の直接数値計算による乱流伝熱解析
氏名(所属) 関本 敦 (大阪大学 基礎工学研究科)
利用システム Oakforest-PACS
高プラントル数Pr(もしくは高シュミット数Sc)流体においては,乱流中の最小スケール渦よりもPr^(-1/2)倍小さなスケールの運動が生じ,非常に多くの格子点数を必要とするためその直接数値計算(DNS)は非常に困難である.また,浮力がある場合には乱流の微細渦にさらに細かな変動が加わるため,本研究のような,全変数に対して全スケールを解像する必要がある.本継続課題では,高プラントル数乱流の壁面伝熱性能の詳細を知るために,高精度DNSコードによって実現する.ミニマルスパン・チャネル乱流を用いることで,大規模スケールの影響をスパン方向の計算領域幅に制限し,計算コストを抑えつつ,レイノルズ数やプラントル数を上げる.浮力を介したスカラー場の変動が微細秩序渦に及ぼす影響を系統的に調べる.

課題名 世界最高レイノルズ数乱流データベース構築のためのGPU-DNSコードの作成
氏名(所属) 関本 敦 (大阪大学 基礎工学研究科)
利用システム Reedbush-L
近年は,GPUを搭載した計算機がスーパコンピューティングセンターで導入されることが多く,スパコン性能の向上は今後もヘテロジーニアス環境によって実現されると考えられ,研究で用いるプログラムもそれに追随する必要に迫られている.これまでの乱流のスペクトル法による直接数値計算(DNS)はベクトル計算機で高性能に実施されていたものが,スカラーコンピュータで並列数を上げて計算するものへと変遷し,今後は,GPUなどメニーコア環境でのDNS計算コードによって,乱流データベースの最高レイノルズ数が更新されると予想できる.そこで,本研究では,申請者がこれまでに行ってきたDNSコード群をGPU化し,世界最大規模のDNSを行うための性能評価を行う.

課題名 医療応用を見据えた電磁界-熱伝導連成解析システムの包括的な高速化・高度化
氏名(所属) 杉本 振一郎(八戸工業大学)
利用システム Oakforest-PACS
並列電磁界解析ソルバADVENTURE_Magnetic (AdvMag)のターゲットアプリの一つとして,数値人体モデルを用いた癌の温熱療法の効果を定量的に評価することを目指している.その一環として,2016年度のFX10スーパーコンピュータシステム「大規模HPCチャレンジ」にて160億自由度の数値人体モデル(解像度0.5 mm)を10分で解析することに成功した.さらに,2017年度の若手・女性利用後期課題を経て,2018年度のOakforest-PACSスーパーコンピュータシステム「大規模HPCチャレンジ」にて1,280億自由度の数値人体モデル(解像度0.25 mm)を15分で解析することに成功した.本課題では,これまでの癌の温熱療法の効果を定量的に評価するための取り組みをさらに進め,熱伝導解析も対象とする.AdvMagと並列熱伝導解析ソルバADVENTURE_Theramlを用いた電磁界-熱伝導連成解析システムの高速化・高度化を包括的に行うことで,スーパーコンピュータ上で1億自由度以上の電磁界-熱伝導連成解析を効率的に行うことができるシステムの研究開発を行う.