東京大学情報基盤センター スーパーコンピューティング部門

2022年度萌芽共同研究公募課題
「AI for HPC:Society 5.0実現へ向けた人工知能・データ科学による計算科学の高度化(試行)」採択課題

厳正な審査のうえ、下記課題採択をさせていただきました(順不同)。

2022年度

課題名 機械学習を用いた非晶質固体系の破壊予測システムの開発
氏名(所属) 川﨑 猛史(名古屋大学 大学院理学研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 (Aquarius), Oakbridge-CX
非晶性固体とは、ガラスに代表される、粒子構造が乱雑な固体の総称であり、我々の身の回りに広く存在する。一般的に固体物質の破壊は、粒子の構造欠陥の特徴づけが容易である結晶性材料においてはその理解が進んでいるが、粒子構造の特徴づけが難しい非晶性固体においてはその理解が遅れている。 非晶性固体においては、比較的小さな歪みに対して前駆破壊と呼ばれる“破壊の種”が間欠的に観測される。この前駆破壊と降伏をともなうマクロな破壊の間には相関があり、前駆破壊を理解することはマクロな破壊を理解する上で重要である。 しかし、振動解析や機械学習を用いた近年の先行研究においても前駆破壊の予測性能の成功は限定的である。本研究では、外力歪み下にあるガラスのシミュレーション結果のデータを情 報基盤センターにて開発された BOTAN に学習させることで、非晶性固体における前駆破壊の予測機を構築する。 BOTAN はその内部で歪みと粒子再配置の運動様式を峻別する画期的なグラフニューラルネットワ ークである。前駆破壊の時空間分布を予測する深層学習が実現されれば、独立な静的な粒子配置から、いつ・どこで前駆破壊が起こるかが予測できるようになることから、以降の大規模な分子シミュレーションなどが不要となり大幅な計算コストの削減が期待される。 また本研究では学習機構築の際に、プログラムやデータの管理システム(Git や DVC)を導入することで、多様なパラメータ下での実装・実験・実証サイクルの 加速、機械学習計算を効率化し、学習過程を含めたトータルの計算コストを抑える工夫を凝らす。 本研究の 科学的目標設定は、多様な非晶質固体モデルに対する計算と学習のサイクルにより、現象の背景にある普遍的・多様的性質を抽出・理解することにある。