東京大学情報基盤センター スーパーコンピューティング部門

2022年度若手・女性利用採択課題

このたびは、お申し込みをいただきどうもありがとうございました。以下の基準による厳正な審査のうえ、課題採択をさせていただきました(順不同)。

  • スーパーコンピューターを利用することで学術的にインパクトがある成果を創出できると期待される点
  • 大規模計算、テーマの重要性

2022年度(前期)

課題名 濡れた粉体の変形・流動特性の理解
氏名(所属) 吉井 究(大阪大学 基礎工学研究科)
利用システム Oakbridge-CX
粉や砂のような巨視的なサイズの粒子の集合体である粉体は、粒子の密度が閾値より高いと、剛性を有し固体的に振る舞う一方、その閾値より低い場合は剛性を示さず流体的に振る舞う.この力学的特性の変化はジャミング転移と呼ばれ、近年盛んに研究されている.特に、粒子間に接触による反発相互作用だけが働く乾いた粉体系の転移点近傍の振る舞いについては、多くのことが明らかになっている.ところが、現実の粉体は濡れを伴う場合が多く、そのような系で乾いた粉体の挙動がそのまま観測されるかは不明である.実際、粉体は少量の水を加えるだけで、応力ひずみ曲線などのレオロジー特性が大きく変化することが知られている.これは粒子間に入り込んだ液体が表面張力によって架橋を形成し、実行的な引力相互作用を与えることに起因する.しかし、従来の濡れた粉体の研究では、個別の視点に立脚した研究は行われているが、理論的な理解や濡れの影響を系統的に調べた研究はほとんど無く、十分な理解に至っていない.そこで本研究では、濡れた粉体系の大変形や流動状態に着目し、離散要素法を用いたシミュレーションを行い、乾いた粉体系との違いを明らかにする。

課題名 t6A修飾を含むリボソーム翻訳開始複合体における開始コドン認識動態の分子動力学計算による解析
氏名(所属) 亀田 健(立命館大学 生命科学部)
利用システム mdx
申請者は、真核生物のリボソーム翻訳開始複合体における、翻訳開始コドン認識をとりまく分子動態の解明を行っている。これまでに、適切な翻訳開始コドン以外のミスマッチコドンや、修飾コドンなどを対象としてきた。本課題では、それらのミスマッチコドンや修飾コドンの翻訳開始を制御すると考えられている、アンチコドンの隣に位置する塩基にt6A修飾が入ったtRNAを含む、リボソーム翻訳開始複合体の動態に着目する。t6Aは生体内での存在と疾患との関連可能性は調べられているものの、リボソーム内での動態や相互作用を含む、翻訳開始制御機構への具体的な作用メカニズムは不明である。本研究課題で行う分子動力学計算を用いた研究により、その作用メカニズムを考察するとともに、医薬研究の基盤技術へと発展させていくことを目指す。/td>

課題名 擬スペクトルMHDコードで狙う磁気回転乱流における慣性領域の解像
氏名(所属) 川面 洋平(東北大学 学際科学フロンティア研究所)
利用システム Oakbridge-CXWisteria/BDEC-01 Odyssey
ブラックホールは降着円盤と呼ばれるプラズマの乱流に取り囲まれている。この乱流は磁気回転不安定性 (MRI) によって駆動されている。MRI乱流の直接数値シミュレーションは膨大な数が行われてきたが数値解像度が不十分であり、乱流の特性を捉えるに至っていない。そこで本研究では、我々が新しく開発した擬スペクトル法コードを用いて降着乱流の特性に迫る。このコードはこれまで用いられてきたコードに比べ、飛躍的にMRI乱流の解像度を上げることができる。本課題では具体的に、これまで解像することができていなかった慣性領域に迫る。慣性領域の情報を得ることができれば、Event Horizon Telescopeによるブラックホールシャドー観測の物理的解釈に必要となる理論モデルを高精度化することに繋がる。<

課題名 着陸探査プローブのクラッシャブル材とレゴリスの衝突・干渉作用に関する数値解析
氏名(所属) 徳永 賢太郎(東京大学 工学系研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
近年重力天体への着陸探査において、着陸時に必要な逆噴射装置やパラシュートといった減速装置を用いる代わりに、発泡金属やプラスチック発泡体といった、クラッシャブルなポーラス材料を着陸機構の一部に使用し着陸時のエネルギーを吸収する技術が着目されている.天体の微小重力や真空環境を地上で完全に模擬できないことも踏まえ、ミッションに用いる着陸機構の最適設計のためには、数値解析モデルを構築し各種パラメータが着陸機構に与える影響を評価する必要がある.本課題は、圧縮変形しながらエネルギーを吸収するポーラス材料とレゴリス(粒状体)との衝突・干渉による相互作用をDEM(Discrete Element Method)により数値モデル化し、ポーラス材料の各種パラメータが着陸メカニズムに与える影響を調査するものである.

課題名 磁気ノズルスラスタにおける中性粒子流れとエネルギー輸送の数値解析
氏名(所属) 江本 一磨(横浜国立大学 理工学府)
利用システム Oakbridge-CXWisteria/BDEC-01 Odyssey
宇宙機の主推進として利用されることが期待される磁気ノズルスラスタを研究対象とし、particle-incell / Monte Carlo collisions / direct simulation Monte Carlo (PIC-MCC-DSMC) コードを用いて、スラスタ内部の中性粒子流れとエネルギー輸送を明らかにすることを目的とする。PIC-MCC-DSMCコードはBoltzmann方程式で構成されるプラズマと中性粒子を確率的に解く手法であり、磁気ノズルスラスタなどの低温プラズマの解析を行う上で強力な手法として知られている。PIC-MCC-DSMCコードを用いることで磁気ノズルスラスタ内部のプラズマ・中性粒子流れを再現し、実験では測定することが困難な中性粒子とエネルギーの輸送現象を解明することが期待される。また、中性粒子とエネルギーの損失過程を理解することで、磁気ノズルスラスタの性能向上を目指す上で必要な指針を得ることができる。

課題名 次世代銀河分光観測に向けたフィールドレベル解析の確立
氏名(所属) 大里 健(千葉大学 先進科学センター)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Aquarius
宇宙物理学における根源的な問題であるダークマター・ダークエネルギーの正体、そして加速膨張の物理的な機構を探るため、大規模な銀河分光観測計画が予定されている。これらの計画では、銀河の三次元位置を測定し背景にある物質分布を描き出すことが主たる観測目的である。従来の解析では、観測された銀河分布から、その情報を要約する統計量を用いてダークマターの存在量に代表される宇宙論パラメータを推定する。しかしながら、統計量は銀河分布の持つ情報の一部しか取り入れられず、統計量で表現できない高次の情報は失われてしまう。そこで、本研究では観測された銀河分布の場が持つ情報の全てを考慮するフィールドレベル解析に着目し、高速で実用的な統計解析基盤を構築する。近年開発された物質密度場の重力進化理論モデルGridSPTを基礎にGPUによる高速化を実装することで、ダークマター・ダークエネルギーのモデル決定に最大限迫ることを目標とする。

課題名 階層性が内在するガラスのエネルギー地形における低周波数振動の緩和予言能の起源
氏名(所属) 白石 薫平(東京大学 総合文化研究科)
利用システム Oakbridge-CX
液体を急冷すると生じるガラスは、複雑なエネルギー地形を持つ。構成粒子がダイマーという「形」を持った粒子のとき、過冷却液体はalpha緩和とJohari-Goldstein beta緩和という2種類の緩和過程を持つ。この緩和過程の分離は、エネルギー地形からはベイスンとメタベイスンという階層構造の現れとして解釈できる。ベイスンにおける低周波数振動は結晶とは異なる性質を示し、振動粒子は熱緩和の発生位置と相関する。ダイマー系での階層的エネルギー地形という理解を踏まえると、緩和と振動の相関は非自明であり、その起源も明らかではない。本研究では、ダイマー系の大規模分子動力学シミュレーションにより、振動状態の特徴付けと緩和予言能の起源の解明を行う。レプリカ交換法を用いて広範な温度領域の平衡液体配置を生成し、振動特性の温度依存性を調べる。そして、各ベイスンにおけるモード・モード相関という新規な量を導入し、緩和予言能を生み出すエネルギー地形的な起源を明らかにする。

課題名 Constructing deep learning models of biological fitness landscapes from sequencing data
氏名(所属) Adam Beattie(東京大学 理学系研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Aquarius
Deep learning has made breakthroughs in biology but requires substantial training data. With a novel high throughput system, over 10^12 peptides can be screened for activity with posttranslational modification enzymes. We will use the sequencing data output to train substrate fitness landscape models. We will test our method on a biosynthetic enzyme, then build a general platform for modelling fitness landscapes for the study of uncharacterised enzymes and the design of selective therapeutics.

課題名 波形インバージョンによる南大西洋下のマントル最下部領域の地震波異方性構造推定
氏名(所属) 大鶴 啓介(東京大学 理学系研究科)
利用システム Oakbridge-CX
地球マントルの最下部数百kmの領域は核-マントル境界(CMB)直上の熱境界層をなしており、外核による加熱を受けて上昇流を発生させることでマントル対流を駆動している。これまでに行われた地震波による構造推定からは、アフリカ下と太平洋下の2箇所に巨大なS波低速度域(LLSVP)が存在することが知られており、これが高温の上昇流に対応するとされている。しかし、最下部マントルでの物質の詳しい流動様式が解明されていないためにこのLLSVPの成因や性質についてもよくわかっていない。そこで本課題では、地震波形に含まれる情報を余すことなく活用することで詳細な構造推定を可能にする波形インバージョン手法と、スペクトル要素法により理論波形を計算するソフトを使用して、アフリカLLSVPの西側境界域にあたる南大西洋下のマントル最下部の地震波異方性構造を推定する。そしてその結果から、マントル最下部での物質の流動に関する制約を得ることを目指す。

課題名 地震波形インバージョンによるマントル最下部のS・P波速度構造同時推定—地球深部の熱・化学進化の理解に向けて—
氏名(所属) 佐藤 嶺(東京大学 理学系研究科)
利用システム Oakbridge-CX
地球の核-マントル境界(CMB)は、固体岩石のマントルと液体鉄合金の外核が接する地球内部の最も主要な熱・化学組成境界であるため、CMB直上数100km(D″領域)は地球の熱・化学進化の理解に重要な領域である。D″領域では地温勾配とマントル組成のソリダスが近いために部分溶融に伴う化学分化を起こすマグマが定常的に発生する可能性が高く、また典型的な沈み込み領域下においては海洋プレートの沈み込みに伴う化学組成不均質が形成されると考えられている。従って観測情報から化学組成異常のサイズと度合いを制約することが重要である。しかし、地震波速度不均質を温度・化学組成効果に定量的に分離するにはS・P波速度構造を同程度の解像度で同時に推定する必要があったが、データセットの質や種類が異なる等課題があった。また正確な理論地震波形の計算も必要であるが、短周期までの計算は計算資源の問題から困難であった。本申請研究では地震波形に含まれる情報を余すことなく活用できる波形インバージョン手法と、スペクトル要素法による理論地震波形計算ソフトウェアSPECFEM3D_GLOBEを用いてD″領域のS・P波速度構造を同時推定する。

課題名 臨界レイノルズ数付近における矩形ダクト乱流中の二次流れと熱的制御
氏名(所属) 関本 敦(岡山大学 学術研究院)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
矩形ダクトなどの角を有する乱流中は、角へと向かう主流に垂直方向の平均二次流れが生じる。この二次流れによって、主流の平均的な分布だけでなく乱流熱伝達率に影響を及ぼすことが知られている。 臨界レイノルズ数付近では、乱流渦と管路幅が同程度のスケールになるため、乱流渦の出現位置が側壁によって拘束される。さらに、壁面加熱して、浮力効果を加えることで、乱流渦の挙動をある程度コントロールできると考えられる。 本研究では、矩形ダクト乱流の直接数値シミュレーションを行い、浮力効果が乱流効果と同程度となるような浮力パラメターにおいて、二次流れの安定化効果や乱流パフへの影響を調べ、壁面加熱による乱流制御の新たな指針へとつなげる。

課題名 Inversion modeling of aquifer deformation for permeability estimation using Automatic Differential and adjoint methods
氏名(所属) 張 毅(地球環境産業技術研究機構)
利用システム Oakbridge-CXWisteria/BDEC-01 Aquarius
Recently, distributed fiber-optic strain sensing tool has been successfully deployed for the acquisition of aquifer strain along the optical fiber-installed well. To estimate aquifer permeability using the strain array data, inversely solving the coupled fluid flow and mechanical (poroelastic) equations is required. In this study, we aim to develop an Automatic Differential (AD) and adjointstate combination method to accelerate the Jacobian matrix calculation and the inverse modeling

2022年度(インターン)

課題名 SED フィッティングによる大規模データからの若返り銀河の検出
氏名(所属) 田中 匠(東京大学 理学部)
利用システム Oakbridge-CX
スペクトルエネルギー分布(SED)フィッティングは観測された銀河のスペクトルにモデルスペクトルをフィットして,星形成活動の時間変化や質量といった銀河の物理量を推定する手法である.若返り銀河と呼ばれる種類の銀河は,星形成活動の抑制を経験した上で直近に星形成を再開した希少な銀河であり,本課題ではノンパラメトリックなSEDフィッティング手法を面分光のデータを持つ約10000個の銀河からなるサンプルに適用することで,かつてない規模で正確な若返り銀河のサンプルを構築する.構築したサンプルを用いて,若返り・星形成活動抑制のメカニズムや銀河の多様性,活動銀河核と星形成との関係等を議論する. またSEDフィッティングの実行結果は極めて汎用性のあるデータベースであり,論文出版時に公開することを計画している.申請者自身も,若返り銀河の研究の後にサンプル内の全銀河を用いた宇宙の星形成史の研究を行なう予定である.

課題名 乱流促進装置による層流-乱流遷移現象の大規模DNS
氏名(所属) 市坪 翔(横浜国立大学 理工学部)
利用システム Oakbridge-CX
本研究では、超低速水槽試験での従来型乱流促進装置の性能評価及び効率的な新しい乱流促進方法の開発を目的として、平板上にスタッド形状の突起物を設けた際の境界層の層流乱流遷移現象について直接数値計算(Direct Numerical Simulation, DNS)を用いて大規模な乱流解析を行う。乱流促進装置に関する基礎的研究は理論的・実験的研究が1960年代から行われているが、船舶流体工学において層流-乱流遷移を直接的に測定・解析した研究はほとんどなく、本課題を実施することで得られる解析データベースは今後の超低速航行船の開発や対応する水槽試験に有意義な知見を与えると期待できる。解析条件としては模型船を用いた水槽試験での曳航速度を基準として境界層での一様流入速度の設定を行う。また、境界層上流に設置する乱流促進装置のスタッドについては、従来の水槽試験で用いられている形状や配置を基準とするが、新しい装置形状・配置についても実施するためパラメトリックスタディが必要となり、必要とする計算機資源は増大する。

課題名 Forest Type Classification Based on Deep Learning Techonologies
氏名(所属) 裴 慧卿(東京大学 農学生命科学研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Aquarius
Deep learning technology and remote sensing data set has developed rapidly. Convolutional neural networks and graph convolutional neural network could be combined to the monitoring and management of natural resource such as forest type classification, merchant volume and carbon stock estimation with high accuracy automatically. Super computation system could provide high quality and computation appliance for the management which could not run in the normal computer and complicated models

課題名 Optimality Comparison of Chemical Kinetic Mechanism for Large Eddy Simulation of Turbulent Non premixed Hydrogen Combustion
氏名(所属) Rahmat Waluyo(東京大学 生産技術研究所)
利用システム Oakbridge-CX
Comprehensive comparison of previously developed chemical kinetic mechanism is proposed to evaluate mechanism optimality in terms of computational resource usage and simulation accuracy. Optimality parameters is quantified by simulation CPU time and deviation of simulated field valuefrom experimental data both of which are combined linearly to form objective function as basis for determining mechanism optimality.

2022年度(後期)

課題名 investigating tropical cloud organization and its interaction with large-scale circulation using global storm-resolving model
氏名(所属) HUNG CHING SHU(東京大学 理学系研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
Organized cloud systems contribute significantly to tropical rainfall, global hydrological cycle, and energy balance. Understanding the physics of tropical cloud organization and its interaction with large-scale circulation is essential to understanding tropical weather and global climate. This study will use a global storm-resolving model explicitly simulating motions at kilometer-scale to investigate tropical cloud organization mechanisms and their relationship with large-scale circulation.

課題名 Key roles of hydrodynamic interactions on coil-globule transition of polyelectrolytes
氏名(所属) Jiaxing Yuan(東京大学 先端科学技術研究センター)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Aquarius
The goal of the project is to utilize an efficient hydrodynamic solver called fluid particle dynamics (FPD) to study the coil-globule transition (CGT) of polyelectrolyte. Unlike current state-of-the-art simulations, our numerical calculations will enable detailed understanding of many-body hydrodynamic interactions in the CGT of a polyelectrolyte which can be relevant to the rational design of exciting functionalities.

課題名 データ駆動的アプローチを用いた水素燃焼現象の予測
氏名(所属) 大平和季(東京大学 工学系研究科)
利用システム Oakbridge-CX
カーボンニュートラルに向けて化石燃料からカーボンフリー燃料への代替が求められおり、水素やアンモニアの燃焼方式の解析が求められている。従来のシミュレーションでは時間平均モデルRANS(Reynolds Averaged Numerical Simulation)が使われていたが、非定常な現象を計算できないため、実際の運用で問題となる逆火や振動などの不安定性を解析できなかった。そこで時間推移に合わせて変化を直接計算するLES(Large Eddy Simulation)実用性の高い解析として注目されている。しかしこのLESという解析手法は計算負荷が高い。さらに解析対象の水素は燃焼速度が大きいので空間的、時間的解像度を上げる必要性があり、計算負荷が高い.このような背景により水素燃焼のLESは需要があるにも拘らず進んでいないのでここを研究対象として特に研究例の少ない水素アンモニア混焼のLESに注力する。この混焼解析結果は発電用のガスタービンのシミュレーションの等への実用化が期待される。

課題名 Al2O3表面上における炭素膜の成長過程に関する研究
氏名(所属) YUE QIANG(岡山大学 自然科学研究科)
利用システム Oakbridge-CX
新しい機能性材料Qカーボンの製造には、前駆体としてAl2O3基板上に成長したアモルファスカーボン膜が必要であるが、Al2O3基板上における炭素膜の成長プロセスは現在不明である。分子動力学シミュレーションは、原子レベルで物質の特性を研究することができ、それにより、炭素膜の微視的な成長メカニズムを研究することが可能である。本研究では、オープンソースソフトウェアのLAMMPSを使用してシミュレーションを実行することを目的としている。本研究を通じて、Al2O3基板上に炭素膜の生成過程と膜の性質があきらかにされると期待している。

課題名 衛星データと数値シミュレーションに基づく超低周波波動とリングカレントイオンの波動粒子相互作用の解明
氏名(所属) 山本和弘(東京大学 理学系研究科)
利用システム Oakbridge-CX
地球周辺の宇宙環境には、太陽から吹き付けてくる太陽風や流出した地球大気に由来する、中程度まで加速されたエネルギーイオンが存在する。これらのイオンが存在する領域をリングカレントと呼び、中エネルギーイオンの運動論的効果を考慮すると、超低周波(Ultra-Low Frequency)波動と呼ばれる波動を励起することが、科学衛星による観測で実証されている。これらの波動が宇宙空間にどのように分布し、宇宙プラズマ環境がどのように変動するかは定かではなく、運動論的効果を含んだリングカレントの数値モデルの構築を介して、ULF波動の励起機構の解明が試みられている。本研究では、複数の領域にまたがる衛星データを境界条件として組み込みつつ、リングカレントのグローバルモデルであるGEMSIS-RCモデルを利用した数値シミュレーションを行い、再現されたULF波動と衛星による実際の観測例を比較し、ULF波動の励起機構やプラズマ環境への影響を明らかにする。

課題名 南極沿岸の棚氷の融解を促進するメカニズムの解明
氏名(所属) 松田拓朗(北海道大学 低温科学研究所)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
棚氷は南極大陸を覆う氷床が海洋に流出するのを防いでいるため、棚氷の融解は海面高度や全球の気候システムに大きな影響を与えることが知られている。たとえば、縄文時代に生じた棚氷の大規模な融解に伴い、海面高度が約5m上昇したと考えられている。そのため、地球温暖化に伴う棚氷の融解の正確な見積もりは、地球科学的な興味に加えて社会的にも重要である。棚氷の融解はCircumpolar Deep Water(CDW)と呼ばれる暖水が亜熱帯域から南極沿岸に輸送されることで促進されると考えられている。温暖なCDWが南極沿岸で海面まで湧昇することで棚氷の底部を融解する。しかし、CDWの輸送経路や輸送を担う経路はまだ十分に解明されていない。そこで、本課題はCDWの輸送を担うメカニズムの解明を目指す。特に、CDWの輸送において重要だと予想されている渦活動に着目して、渦が運ぶCDWの熱量の定量化を目指す。

課題名 クラックを含む資料の荷重への応答の分子動力学法を用いた解析
氏名(所属) 舩橋 郁地(東京大学 理学系研究科)
利用システム Oakbridge-CX
素材の変形、破壊に伴って放出される弾性波であるアコースティック・エミッション(AE)に対し、変形、破壊中の様々な過程が励起源として提案されている。種々の励起源に関し、発せられるAEの特徴を掴むことがAEや素材の変形、破壊過程の理解のために重要である。本利用課題では、クラックを含む資料への、クラック伸長を伴うとは限らない荷重という新たなAE励起源を提案し、その妥当性の検討や、発生するAEの特徴の調査を行う。具体的には、様々な形状、サイズのクラックを持つ試料に対する荷重を分子動力学法を用いてシミュレーションし、振動の発生や伝搬を観察する。申請者は特定の条件のもとでの振動現象を既に確認しており、本利用課題ではスケーリング則を用いたAE観測実験との比較を目指す。