東京大学情報基盤センター スーパーコンピューティング部門

2024年度若手・女性利用採択課題

このたびは、お申し込みをいただきどうもありがとうございました。以下の基準による厳正な審査のうえ、課題採択をさせていただきました(順不同)。

  • スーパーコンピューターを利用することで学術的にインパクトがある成果を創出できると期待される点
  • 大規模計算、テーマの重要性

2024年度(前期)

課題名 Real-time Component Motion Aware Human Action Recognition Using High-speed Skeleton Data
氏名(所属) CAO YONGPENG(東京大学 大学院情報学環・学際情報学)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Aquarius
The proposed research aims to address limitations in real-time human action recognition by leveraging high-speed skeleton data and component motion labels. This approach considers human actions as compositions of sub-motions, enhancing recognition capabilities by exploring the semantic and motion-level similarity between sub-labels and labels. A novel hierarchical shrinking self-attention mechanism architecture is also proposed to improve model inference speed.

課題名 Enhanced Component-Wise Natural Gradient Descent Training Method for Deep Neural Networks
氏名(所属) TRAN VAN SANG(東京大学 情報理工学系研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 OdysseyWisteria/BDEC-01 Aquarius
This research updates Component-Wise Natural Gradient Descent (CW-NGD), an innovative network training method that facilitates efficient parameter updates by approximating the curvature Fisher Information Matrix. By the investigation of the exponential moving average integration, and appropriate hyperparameters selection obtained from the comprehensive analysis results, significant enhancements in CW-NGD's performance have been achieved. These improvements enable CW-NGD to attain state-of-the-a

課題名 大規模並列計算を用いた宇宙機用ガスジェット推進機の試験環境影響の解明
氏名(所属) 西井 啓太(東京都立大学)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Aquarius
本研究では、宇宙機の精密な位置制御に必要となるマイクロガスジェット推進機の試験環境影響(ファシリティエフェクト)に関する数値的解析を行う。計画は3つの段階に分けられる。初めに、既存のDirect Simulation Monte Carlo(DSMC)コードをMPICUDAでアップデートし、Wisteria/BDEC-01 Aquariusスーパーコンピューター上での動作を確認する。この段階で、コードの妥当性を検証し、既存の結果と比較する。次に、従来のコードでは計算コスト上不可能であった高Re数条件下でノズル流れを計算する。特に、高Re数と低Re数条件で発生する現象の違いを明らかにする。最後に、推進機近傍だけでなく、真空槽全体を対象とした計算を実施することで、従来より現実に即したファシリティエフェクトの補正則を導き出す。真空ポンプの位置や排気速度が推進機の性能に与える影響を明らかにする。これら一連の取り組みにより、地上試験から宇宙性能を予測する際の不確かさを低減させ、同一規模の予算で立案可能な宇宙ミッションの拡大が期待できる。

課題名 気象雷モデルを用いた孤立積乱雲におけるダウンバーストに先行する雷活動の激化の発生条件の解明
氏名(所属) 近藤 誠(北海道大学 理学院自然史科学専攻)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
本研究課題では、雷活動がダウンバーストに先行して激化するライトニングジャンプという現象の発生条件を、雲粒子の電荷獲得過程・成長過程を直接計算可能な気象雷モデルを用いて解明することを目指す。 ライトニングジャンプ(LJ)は雷現象の活動の激化がダウンバースト等の突風に先行する現象で、両現象の時間相関から観測研究に基づき提案され、予測指標として警報情報にも活用されている。 LJの発生条件となる物理過程を明らかにするには、雷発生に寄与する雲粒子の存在する積乱雲の特性と、ダウンバースト発生に寄与する雲粒子が成長する積乱雲の特性を理解する必要がある。しかし、従来の観測では積乱雲内部の特性の異なる雲粒子同士の成長過程などを観測することは困難である。 そこで、本研究課題ではシンプルな構造である孤立積乱雲を対象とし、雲粒子の電荷獲得過程・成長過程を直接計算可能な気象雷モデルを用いた数値実験を行う。そして、雷とダウンバーストのそれぞれに適した積乱雲の特性を明らかにすることでLJの発生条件を調査する。

課題名 分子動力学シミュレーションによる細胞質の化学反応速度論の研究
氏名(所属) 島田 真成(東京大学 生産技術研究所)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
細胞内の化学反応の理解は、生命現象そのものの理解と表裏一体である。生体内反応は酵素触媒によって反応が起きる条件や速度が制御されており、その機構を理解するべく化学反応ネットワークの理論が研究されてきた。しかし、大規模な化学反応ネットワークを扱うためにはいくつかの仮定が必要であり、それらは細胞内では必ずしも成り立っていないということが明らかになりつつある。例えば、化学反応ネットワークの理論ではしばしば反応物が低濃度であることが想定されるが、実際の細胞内は多種多様な分子によって混み合っており、特定の分子が高濃度になることもありうる。このような状況では、相分離をはじめとする複雑な多体現象が起きるため、生体内反応をより良く理解するためには、分子運動と化学反応が絡み合う系を扱わなければならない。そこで本研究課題では、大規模計算機を用いて分子運動と化学反応を同時にシミュレートすることにより、生体内反応を理解するための新しい理論基盤を構築することを目指す。

課題名 電気化学エネルギー変換デバイスにおける多孔質電極の超大規模化細孔スケール解析と高解像トポロジカル最適化設計への展開
氏名(所属) Alizadehkolagar Seyedmehrzad(大阪大学 工学研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
本研究課題では、燃料電池や二次電池などの電気化学エネルギー変換デバイスの性能を決定づける多孔質電極の構造最適化をミクロスケールで実現する。数理科学と計算科学を基盤として、従来は扱い得なかった反応輸送場における不均一性をそのままに取り入れて、空間および時間平均を施さずに不均一構造そのものを最適化する手法を確立する。不均質な電気化学反応輸送場を細孔連結モデルを用いて表すことで、局所構造に依存した不均一な反応輸送物性を空間平均することなく大幅な計算負荷の低減を実現し、メタヒューリスティクス最適化アルゴリズムとの統合を可能として、最適化された不均質構造を生成する。これにより、空間と時間の不均一性とばらつきが有する工学的応用の可能性を拓き、積極的に活用する最適設計のための研究基盤を確立する。

課題名 室内環境放射線評価と動物病院における放射線防護
氏名(所属) 王 雪晴(東京大学 大学院新領域創成科学研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
「家族の一員としても位置づけられる愛玩動物と、彼らを取り巻くステークホルダーを、さまざまな場面で遭遇する放射線リスクからどのように護るべきか」が本研究の論点である。獣医療における計画的な被ばくや、原子力災害時の環境汚染に巻き込まれてしまうような緊急時の防護の考え方の整理はなく、彼らの被ばく線量の評価体系すら現時点では十分に整備されていない。本研究では、以下の2つの視点で愛玩動物等に関連した新しいアプローチでの放射線防護システムを構築し、社会実装プロセスを想定した課題を具体的に整理し、その解決のための選択肢を明らかにすることを目的とする。研究テーマA:患者としての愛玩動物等の放射線防護、研究テーマB:ヒト(医療スタッフ、介添者、公衆)の放射線防護。

課題名 時空間スケール分離に基づく高レイノルズ数翼型失速流れ解析
氏名(所属) 玉置 義治(東京大学 工学系研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
本申請課題では、高レイノルズ数翼型失速流れ解析に対する時空間スケール分離に基づく効率的な解析フレームワークを実証する。高レイノルズ数の翼型周り流れでは、翼型前縁で生じる小スケールの乱流遷移現象と翼型全体スケールの空力現象が同時に存在している。ここで、乱流遷移現象については直接数値シミュレーション(DNS)、翼型全体の流れ場に対しては壁面モデルLESを用い、壁面モデルLESに対してDNSから得られる境界層を流入条件として与えることで、全体をDNSで解くのと比べて計算全体としてのコストを削減する(空間スケール分離)。さらに、遷移は時間スケールの短い現象であるため、DNSを全時間に渡って解く必要はない。ここでは、壁面モデルLESに対して、DNSから得られる流入境界層の平均速度や変動スペクトルのみを与えるようにすることで、DNSを短時間に留め(時間スケール分離)、さらに効率的な解析を実現する。

課題名 サンプリング・データ拡張の改良によるモデル崩壊の緩和
氏名(所属) 幡谷 龍一郎(理化学研究所)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Aquarius
生成データに汚染されたデータセットを用いて学習した深層モデルは性能が劣化してしまう、モデル崩壊と呼ばれる現象は喫緊の課題である。このような問題は生成データの多様性が、実際のデータと比較して低いことによると考えられている。そこで本課題では、汚染されたデータセットから学習する際のサンプリングやデータ拡張を改良し、人工的に多様性を増大させることでモデル崩壊の影響を緩和することを目指す。

課題名 土粒子ー間隙流体の高精度かつ高効率な連成のための間隙ネットワークモデル(PNM)の開発
氏名(所属) 森本 時生(東京大学 工学系研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Odyssey
土粒子が間隙流体の流れにより受ける力や熱伝達を高精度かつ効率よく計算する数値解析手法が求められている。土粒子をシミュレーションする手法として個別要素法(DEM)があるが、間隙流体の影響を考慮するためにはDEMを数値流体解析(CFD)と連成する必要がある。昨今開発されてきた手法は①土粒子よりも数十倍小さい流体メッシュを考慮する手法(fully-resolved CFD)と②土粒子よりも粗いメッシュを考慮して経験的モデルで粒子ー流体相互作用を補完する手法がほとんどである。①は計算コストが非常に高く、②は精度が低いことが問題となる。間隙ネットワークモデル(PNM)は両者の中間のスケールを持つ手法で、高計算効率と高精度を両立させる流体解析手法となるポテンシャルがある。本研究はスーパーコンピューターを用いて様々な粒子配列や様々なレイノルズ数に対してfully-resolved CFD解析を行い、そのデータを元にPNM内のモデルの高精度化を行う。

課題名 磁気回転乱流シミュレーションにおけるボックスサイズの影響調査
氏名(所属) 川面 洋平(宇都宮大学 データサイエンス経営学部)
利用システム Wisteria/BDEC-01 OdysseyWisteria/BDEC-01 Aquarius
降着円盤は様々なコンパクト天体の周辺に見られる普遍的な天体現象である。降着円盤におけるガスの降着は、磁気回転不安定性 (MRI) によって駆動される乱流によって引き起こされていると考えられている。しかし、MRIが駆動する乱流の性質そのものには未解決問題が多く残されている。例えば、乱流スペクトルやAlfvén波的な揺動と磁気音波的な揺動の配分が分かっていない。これらの情報はEvent Horizon Telescopeの観測結果を物理的に解釈する際に重要となる。これらの問題が未解決なのは、これまで行われてきたMRI乱流シミュレーションの数値解像度が不足していることに由来する。そこで本研究では、申請者が開発した電磁流体コードを用いて史上最高解像度の局所MRI乱流シミュレーションを行い、上記2つの問い(スペクトル形状および乱流揺動の配分)の答えを出す。具体的にはMRIの最大成長波長とシミュレーションボックスのサイズとの比を変化させ、スペクトルや揺動の配分がどう変わるか調査する。

課題名 大規模データに対するモード解析を用いた低レイノルズ数のバフェット下の後退角の影響に関する研究
氏名(所属) 藤野 献(東京大学 工学系研究科)
利用システム Wisteria/BDEC-01 OdysseyWisteria/BDEC-01 Aquarius
本研究は低レイノルズ数の遷音速バフェットにおける、三次元的な後退角の影響を大規模な流体データ用のモード解析を用い周期的な構造を抽出することで明らかにする研究である。これまで後退角を持つ航空機の高レイノルズ数環境における遷音速バフェットの振動には、バフェットセルと呼ばれる、三次元的なスパン方向の周期的な振動が確認されてきた。しかし低レイノルズ数流れにおける遷音速バフェットにおいて、後退角の影響によるバフェットセルのような三次元的な流れ場は十分理解されていない。このため後退角の影響を加味することで、低レイノルズ数環境下のバフェットセルといった後退角の影響を明らかにすることを目指す。本研究では得られた大規模な流体データに対して、Incremetal POD/DMDを用い、周期的な現象の構造を抽出する。

課題名 次世代銀河分光観測に向けた銀河分布フィールドレベル解析の検証と確立
氏名(所属) 大里 健(千葉大学 先進科学センター)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Aquarius
宇宙物理学における根源的な問題であるダークマター・ダークエネルギーの正体、そして加速膨張の物理的な機構を探るため、大規模な銀河分光観測計画が予定されている。従来の解析では、観測された三次元銀河分布から、その情報を要約する統計量を用いて宇宙モデルを推定する。しかしながら、統計量は銀河分布の持つ情報の一部しか取り入れられず、統計量で表現できない高次の情報は失われてしまう。そこで、本研究では観測された銀河分布の場が持つ情報の全てを考慮するフィールドレベル解析に着目する。我々は理論計算のボトルネックとなっていた多数回のフーリエ変換をGPUによって高速化し、入力パラメータに対する勾配を自動で計算する自動微分を実装したDifferentiable GridSPTという物質分布の非線形重力進化を計算するコードを開発した。本研究課題ではこのコードを用いて、数値シミュレーションの結果を用いて、フィールドレベル解析を実行することで手法の妥当性を検証する。加えて、実際に観測される銀河分布の進化を解析的に取り扱う銀河バイアス展開法を実装し、より現実的な状況下におけるフィールドレベル解析を実装する。

課題名 THM modeling of cold CO2 injection into deep saline aquifer: using distributed sensing for tracking CO2 plume
氏名(所属) 張 毅(地球環境産業技術研究機構)
利用システム Wisteria/BDEC-01 Aquarius
CO2 storage is an essential technology for mitigating greenhouse gas emissions. Injecting cold CO2 presents challenges due to potential thermal-induced mechanical effects on the reservoir. On the other hand, we can leverage the thermal and mechanical deformation caused by cold CO2 for tracking the evolution of the CO2 plume using distributed temperature and strain sensing. This project aims to develop thermal-hydraulic-mechanical(THM)models and integrate them with real time monitoring data.